BOOK REVIEW

橋本治 『これで古典がよくわかる』

袖濡るる露のゆかりと思ふにも なほ疎まれぬやまとなでしこ (源氏物語「賢木※」) ※この巻は紅葉賀? 「この子が私の涙の原因だと思うと、やっぱり私はこの子を好きにはなれない」 「疎まれぬ」の「ぬ」は否定の意味ではなく、完了の助動詞「ぬ」である。し…

久江雅彦 『日本の国防』

「Too Little,Too Late」「小切手外交」と揶揄された、1991年湾岸戦争時における日本の対応。135億ドルの戦費拠出、ペルシャ湾の機雷除去のため史上初となる自衛隊の海外派兵も空しく、外務官僚に「湾岸トラウマ」を刻み込む。そして翌92年、小沢一郎自民党…

村山斉 『宇宙は本当にひとつなのか』

宇宙は遠くに行けば行くほど、昔の姿が見えてくる。われわれは未だ、ビッグバンそのものを見ることはできないが、宇宙背景放射という、いわばビッグバンの「残り火」を観測することで、宇宙を構成するものの内訳を知ることができる。それによると、星や銀河…

今井むつみ 『ことばと思考』

私たちは世界にあるモノや色、モノの運動などを、単に見ているわけではない。見るときに、脳では、ことばもいっしょに想起してしまうのだ。たとえそれが、一瞬のことで、意識的には気づかず、記憶に留まることがなくても、だ。つまり何かを見るとき、言語を…

田尻祐一郎 『江戸の思想史』

一口に江戸の思想史と言っても、「徳川の平和」から幕末の「内憂外患」の時代まで、その歴史は250年の長きに及び、「武士は何のためにあるのか」を問うた山鹿素行から、徳川国家の正当性を鋭く批判する会沢正志斎まで、まさに百花繚乱の様相を呈している。 …

日本語の論理とヨーロッパ語の論理

大野晋『日本語練習帳』(岩波新書)と野内良三『日本語作文術』(中公新書)を読む。 大野は、日本語のセンテンスの構造を理解する上で、「ハ」と「ガ」の違いに留意するよう促し、「ハ」の働きについて (1)問題(topic)を設定して下にその答えが来ると予…

橋爪大三郎+大澤真幸 『ふしぎなキリスト教』

最初にイエスが、ただの人間(人の子)として現れて、人間の罪を背負ってみじめに死んでしまう。そして、復活する。そのあと、天に昇った。 天に昇ったのは、やがて再臨するため。そのときは、本格的な神の介入になる。イエス・キリストは、人間に殺されたの…

島田裕巳 『神も仏も大好きな日本人』

秋風や囲いもなしに興福寺 子規 かつて大和国の大部分、つまりは現在の奈良県全域を所有するほどの隆盛を誇り、「鎌倉幕府も室町幕府もそこに守護をおくことさえできなかった」興福寺は、1868年3月28日に発せられた神仏分離令とそれに伴う廃仏毀釈、そして71…

吉見俊哉 『大学とは何か』

「今日、大学はかつてない困難な時代にある」と著者は指摘する。しかし、恐らくその「困難」の本当の“困難さ”とは、大学が直面する危機の「本質」が、マスメディアをはじめ、今の時代にほとんど「理解され得ない」という点にこそあるのではないか。グローバ…

島田裕巳 『教養としての世界宗教史』

宗教がない国というものは存在しないし、宗教をもたない民族も存在しない。――そうであるならば、宗教の起源とはいったい何であったのか。 直立二足歩行という身体的な変化は脳の発達を促し、喉の構造の変化が(音声としての)言語の獲得に繋がっていく。著者…

呉智英 『つぎはぎ仏教入門』

仏教、と聞くと、さまざまなイメージが浮かぶだろう。例えば、奈良・京都の古刹名刹。それを開山した宗祖たち。またそこに祀られた荘厳な仏像。そしてその仏像の前で各宗派の高僧たちが読むお経。 ところで、仏教のそもそもの宗祖は釈迦である。釈迦はその弟…

中野剛志 『TPP亡国論』

さらにまずいのは、関税率が低いのに「国を開きます」と宣言すれば、日本が開放すべきは関税以外のもの、すなわち非関税障壁だということになるだろうということです。非関税障壁には、社会的規則、安全規制、取引慣行、果ては言語や文化まで、外国企業が日…

竹田青嗣 『21世紀を読み解く 竹田教授の哲学講義21講』

精神の独自の運動(弁証法的運動)こそが精神の存在本質で、それをヘーゲルは「自由」と呼ぶ。(略)この精神の運動が、個別的な精神と、自然とを作り出している。また個別的精神のせめぎ合いが、人間の「歴史」の根本動因になっている。世界史は、精神のせ…

神保哲生+宮台真司 『地震と原発 今からの危機』

エリートが民衆のパニックを恐れてパニックになって社会を滅茶苦茶にする。人々の合理的行動計画にはマクシミン(最悪自体最小化)戦略を可能にすべく最悪シナリオの認識が必須だが、官邸がこれを意図して妨害した。 官邸による妨害を単に愚昧なエリート・パ…

宮台真司+飯田哲也 『原発社会からの離脱』

…冷戦はさておき、経済復興を遂げれば、日本は対米追従の大きな理由のひとつを失うことになる。自立に向けて舵を切ろう、アメリカに依存する国であることをやめよう。田中角栄はそう考えて、対中国外交と対中東外交でアメリカを起こらせる独自路線を走ろうと…

有馬哲夫 『原発・正力・CIA』

1954年3月1日、原子力の負の面を示す「決定的な事件」が起こった。アメリカが南太平洋のビキニ環礁で水爆実験を行ったところ、近くでマグロ漁をしていた第五福竜丸の乗組員がこの実験の死の灰を被ってしまったのだ。 この「第五福竜丸事件」は巨大な反米世論を…

内田樹+中沢新一+平川克美 『大津波と原発』

本書は池田信夫『3.11後 日本経済は…』と同じ朝日新聞出版から上梓された本だが、書かれている内容も方向性も全く異なる一冊だ。 先ごろ亡くなった人類学者のレヴィ=ストロースが「日本人はブリコラージュを駆使しながら、物づくりをする素晴らしい民」と言…

池田信夫ほか 『3.11後 日本経済はこうなる!』

特に震災復興に際しては、昔の街を復旧するのではなく中核都市に機能を集中し、インフラや医療・福祉などの整備を効率的に行う「コンパクトシティ」の考え方が重要です。戦後の日本では、全国のすみずみまで「あまねく公平」なインフラ整備を行ってきました…

高階秀爾 『誰も知らない「名画の見方」』

西洋美術の作品史を8つのテーマに分類し、各テーマ3人の巨匠を紹介しながら名画「成立の秘密」を解きほぐしていく。 …《真珠の耳飾りの少女》を前にしたときはとくに、見ているはずの私たちが、振り向きざまの少女に逆に見つめられているようにすら感じられ…

島田裕巳 『世界の宗教がざっくりわかる』

ソ連(当時)によるアフガニスタン侵攻が行われた際には、共産主義の侵略を阻止しイスラム教を守るために各国から義勇兵がアフガニスタンに集まり、ソ連に対抗する。こうした義勇兵をアメリカなどが支え、武器などの提供も行った。その結果、ソ連はアフガニ…

佐藤勝彦 『相対性理論から100年でわかったこと』

「重い物質のまわりでは空間が曲がり、時間は遅れる」というアインシュタインの一般相対性理論と、「ミクロの物質の正体は波であり、その未来はサイコロが決める」とした量子論。現代物理学は、20世紀初頭に「発見」されたこの2つの革新的な理論を両輪として…

中村光 『荒川アンダーザブリッジ 1』

「これで 私とお前の間に 貸し借りは無しだ これからは 一人で生きていきなさい」 突然突きつけられた 厳しい運命よりも 「返事は」 「……はい」 髪についた泡と一緒に 昨日の父さんの 手の温かさまで 流れていって しまうようで 荒川河川敷を舞台に繰り広げ…

川合光 『はじめての<超ひも理論> 宇宙・力・時間の謎を解く』

…御大ファインマンのひも嫌いはことのほか有名で、シュワルツのひも理論を「ナンセンスな理論」と決めつけていた。その大きな理由には、ひも理論が10次元時空を要求することがあった。カリフォルニア工科大学のセミナーで、ある日講義をしたシュワルツに向か…

NHK「東海村臨界事故」取材班 『朽ちていった命』

トレックスガーゼをはり、その上から顔を見せると、妻、妹、父、母とも泣いている。泣きながらも「ずっとガーゼでおおわれていたし、どんな顔になっているか気になっていた。話を聞いただけではどんな顔になっているのか気になっていた。もっと黒くなってい…

加藤陽子+佐高信 『戦争と日本人』

ぬれぎぬを干そうともせず子供らがなすがまにまに果てし君かな これは、「自らの考えと鹿児島私学校派の士族たちの意図が異なることを知りつつ、それでもなお、私学校派の少壮士族らの起こした反乱に黙って推戴された」西郷隆盛の死を悼んだ勝海舟の歌だとい…

半藤一利 『幕末史』

嘉永6年(1853)のペリー艦隊来航に始まって、明治10年(1877)の西南戦争勃発と終結、そして翌11年5月14日の東京麹町・紀尾井坂下における大久保利通暗殺という、維新三傑の退場(木戸孝允、西郷隆盛、大久保)と山県有朋による統帥権独立(「国の基本的骨…

朝吹真理子 『きことわ』

入院中にもらったメールで、koma2さんがしきりに誉めていたので読んでみる。 ジャン・ジュネ『泥棒日記』などの翻訳で知られる仏文学者・朝吹三吉を祖父に、サガンやボーヴォワールの翻訳で知られる朝吹登水子を大叔母に持ち、父が仏文学者で詩人の朝吹亮二…

加藤陽子 『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』

――政治は大衆のいるところで始まる。数千人がいるところでなく、数百万人がいるところで、つまり本当の政治が始まるところで始まる。 「戦争から見る近代の面白さ」というテーマのもと、著者はレーニンのこの言葉を掲げ、「巨大な数の人が死んだ後には、国家…

福田和也 『教養としての歴史 日本の近代(下)』

二・二六事件後、北一輝とともに銃殺された西田税が二十歳のとき書いた、「無限私論」という日記があります。西田は陸軍士官学校を優秀な成績で卒業しながら、肋膜炎によって退官をよぎなくされ、国家主義運動に参加していくのですが、その療養中に書いた日…

福田和也 『教養としての歴史 日本の近代(上)』

「自由」という言葉が変容するのは、明治五年に中村正直がJ・S・ミルの『On liberty』を『自由之理』と題して訳してからのことです。 (…)けれど、元来積極的な意味を日本語の文脈において持つことがなかった「自由」という言葉をその訳語としたのは、「日…