川合光 『はじめての<超ひも理論> 宇宙・力・時間の謎を解く』

…御大ファインマンのひも嫌いはことのほか有名で、シュワルツのひも理論を「ナンセンスな理論」と決めつけていた。その大きな理由には、ひも理論が10次元時空を要求することがあった。カリフォルニア工科大学セミナーで、ある日講義をしたシュワルツに向かって、セミナーに参加したファインマンは、こんな痛烈な野次を飛ばした。
「おいシュワルツ、今日の君はどの次元にいるんだ?」

(p.247 コラム5=高橋繁行)
 
 時間と空間との関係は、アインシュタイン一般相対性理論以降、それぞれ独立に存在するものではなく、「時空として一体」であると考えられている。従って「空間を極小へ極小へとさかのぼることは、同時に時間をさかのぼることにもなる」。
 ところで、時間にはそれ以上細かく区切ることのできない「プランク時間」(1×10^-41秒)が、また長さにはそれ以上短い長さでは時空を定義できない「プランク長さ」(10^-33m=超ひも理論による単位)がある。これらは、ニュートン万有引力定数と光の速さから導き出されたプランク定数から算出されたものだが、このプランク長の世界は、従来のアインシュタイン方程式と「ゲージ理論」ではうまく記述することができない。そこで、こうした「宇宙の根源」の謎を解く有力な理論の一つとして探求されているのが「超ひも理論」なのだという。
 
 超ひも理論では、物質の最小単位は0次元の「点粒子」ではなく、2次元の「ひも状の物質」であり、そのひもの振る舞いがクオークや電子として見えているということになる。超ひも理論が完成すると、物理学者の長年の悲願であった「重力問題」(4つの力の統一)が解決され、宇宙の起源の謎も解ける可能性がある。いわば「セオリー・オブ・エブリシング」(Theory of Everything)として期待されている(ただし、本書が刊行された2005年12月の段階で、「超ひも理論」が本当に完成する「第3期ブーム」は始まっておらず、現時点で物理学の世界の定説となっているわけではない)。
 
 巻末には、著者らが検討を進めている「サイクリック宇宙試論」も紹介されている。それによると、宇宙はこれまでにビッグバンとビッグクランチを繰り返しており、(宇宙のエントロピーの計算から)現在私たちが生きているのは「50回目の宇宙」であると考えられる。そして、次の世代(51回目の宇宙)の可能性については、「アインシュタインの宇宙項の観測データが正しければ、宇宙はビッグクランチせずにこのまま膨張しながらただ冷えていくだけで、宇宙はつまらない、緩やかな死を迎える」ことになるという。ミクロの世界の探求が、宇宙の歴史の解明へとダイナミックなに繋がっていく面白さが分かりやすく紹介された入門書だ。