島田裕巳 『世界の宗教がざっくりわかる』

 ソ連(当時)によるアフガニスタン侵攻が行われた際には、共産主義の侵略を阻止しイスラム教を守るために各国から義勇兵アフガニスタンに集まり、ソ連に対抗する。こうした義勇兵アメリカなどが支え、武器などの提供も行った。その結果、ソ連アフガニスタンからの撤退を余儀なくされ、それがひいてはソ連の解体に結びついていったものの、戦闘に勝利した義勇兵たちは祖国には受け入れられず、むしろ社会秩序を脅かす危険な存在として排除の対象になった。
 元義勇兵たちは過激派に集結し、自分たちを排斥した祖国や、その背後にあるアメリカを攻撃するようになる。その代表が、アメリカでの同時多発テロの首謀者と目されてきたビンラーディンである。
 (「終 いま世界の宗教は」p.207-8)
 
 宗教史の記念碑的大著『世界宗教史』を著したミルチア・エリアーデは第1巻冒頭の序文に「長年の間、私は数日中に読み終えることができるような短く簡明な著書を構想してきた」と述べている。「一気に通読すれば、何にもましてもろもろの宗教現象の基本的統一性と、同時にそれらの宗教的表現の汲みつくしえない新しさが明らかになるからである」 (「はじめに」p.9)
 
 「カエサルのものはカエサルに」としたキリスト教は、「性の快楽に結びつかない」神聖な世界と、「性の快楽が追求される」世俗の世界を根本的に対立するものとして二分し、聖なる世界だけを律した。これは、同じ一神教でもユダヤ教イスラム教と大きく異なる特徴だと著者は指摘する。
 クリスマス信仰がミトラ教の「冬至の祭り」を基盤としていることはよく知られているが、アタナシウス派による三位一体説の採用により、多神教的な側面を備えたキリスト教に比べ、イスラム教では預言者ムハンマドの顔が描かれることはなく、ましてやアッラーの像も存在しない。ムスリムが日々の礼拝を行うときに目処とする、メッカの方向「キブラ」を示す窪み(ミフラーブ)も何ら神聖な意味はなく、ただの「窪み」にすぎない。
 
 その他、ゾロアスター教マニ教などのイランの宗教、インドにおけるバラモン教と仏教の盛衰およびヒンズー教の隆盛などの概観が述べられているほか、日本における神道、仏教、儒教の受容史がまとめられており、一気に通読することによって「世界宗教への関心」が喚起される作りとなっている。