加藤陽子+佐高信 『戦争と日本人』

 ぬれぎぬを干そうともせず子供らがなすがまにまに果てし君かな
 
これは、「自らの考えと鹿児島私学校派の士族たちの意図が異なることを知りつつ、それでもなお、私学校派の少壮士族らの起こした反乱に黙って推戴された」西郷隆盛の死を悼んだ勝海舟の歌だという。時代が下って、原敬が数え年19歳の少年に東京駅頭で暗殺された事件の報を耳にして、大杉栄佐藤春夫にこう呟いたという。
 
 「やつたのは子供なのだね」(本書『はじめに』より)
 
 この、恐るべき子供たちを生み出す「時代の空気」に敏感になるために、歴史感覚を磨くということ。「天をめぐらす器をもった回天の政治家が、『子ども』たちに暗殺されてしまうことのないように」と願う加藤陽子の言葉は暗示的であり予言的だ。
 
 本書の中では第四章「草の根ファシズム」と第五章「外交と国防の距離」が興味深く、「軍から自衛隊へと受け継がれたものと、内務省から総務省へと受け継がれた部分」(p.155)の分立など面白い。第六章「『うたの言葉』から読み解く歴史」などは、この章一つで一冊の本ができあがってしまうくらいの内容だ。