高階秀爾 『誰も知らない「名画の見方」』

 西洋美術の作品史を8つのテーマに分類し、各テーマ3人の巨匠を紹介しながら名画「成立の秘密」を解きほぐしていく。
 
 …《真珠の耳飾りの少女》を前にしたときはとくに、見ているはずの私たちが、振り向きざまの少女に逆に見つめられているようにすら感じられる。それは、この白い点として描かれた「不自然で人為的な」光の効果によるところが大きいだろう。自然にはありえない白い点として描かれた光が瞳に生き生きとした輝きを与え、その瞳の輝きに、見る者は心奪われ立ちすくむわけだ。 (第1章 「もっともらしさ」の秘訣 p.17)
 
 写実を超えたリアリティーを獲得するために、フェルメールが少女の瞳に描き込んだ「白い点」。ファン・エイクが床面に仕掛けた「不可能な歪み」。遠近法を援用するのではなく、影だけで奥行きを表現したベラスケス。あるいは時代(を生き抜く/に抗う/を代弁する)作家たち。科学の目を持つ画家、人を物のように描く画家、音楽をキャンバスに描く画家…。最終章のテーマは「新しい時代を描き出す」だが、ここで紹介されるのはピーテル・ブリューゲルベルト・モリゾ、ギュスターブ・モリゾの3人である。こうした選出の妙も面白い。
 
 およそ3時間もあれば読了できるコンパクトさながら、「絵画を見る」容易で難解な営みに気づきにくい手がかりを与えてくれる味わい深い入門書。