BOOK REVIEW
悲劇的な前作(『ピンクとグレー』)よりも力強くストレートな作品。前作に引き続き、フェデリコ・フェリーニやアキ・カウリスマキ、ヘミングウェイなど著者の若者らしい嗜好の一端が伺い知れて興味深い。 すべての登場人物やエピソードに「意味」を持たせる…
では、いったい灰田文紹と白根柚木とは何だったのか。なぜ灰田は失踪し、白根は絞殺されねばならなかったのか。緑川の示すメッセージとは何を意味していたのか――。 ファンタジーと言ってしまえばそれまでだが、どこにも回収されずに取り残されたままの「伏線…
『閃光スクランブル』が話題のNEWS・加藤シゲアキの処女作。「預言詩」としての「ファレノプシスの真実」など、細部にわたって伏線が生かされており、重層的なカタストロフィーが襲いかかる中盤から終盤にかけての疾走感は圧巻である。 もし、この小説の中心…
(多くの仏教学者や僧侶が原世的な価値観に囚われて、仏教の“凶暴”な側面をあまり論じようとしない光景を見ると)一体何をしているのだ、という焦燥を禁じ得ません。(略) 私の考えでは、仏教は、先に縷説した独我論的な思考を内側から破る方途を提供できる…
学生が大学で「学ぶ」ための技法を紹介した本。学生時代、この手のhow to本は読まなかったが、いま振り返って手に取ってみると懐かしく面白い。 スノッブであることを恐れず、古本屋の香りに酔う。読書リストを意識的に作成し、1000冊の本を読破してひとかど…
入院中、気軽に読める本はないかと思って選んだ本。結局、ベッドの上ではただラジオに耳を傾けるばかりで、退院後、年明けてから読んだのがこの2冊である。 私たちに唯一、絶対といっていい真実とは、私たちがやがて死ぬ、ということである。それは、究極の…
社会に対して深い憎しみを抱いていたルソーの妄想(一般意志)を政治の世界に持ち込んだのがロベスピエールでした。(…)アレントは「世界を火のなかに投じたのはフランス革命だった」と言います。そして、一般意志が全体主義につながる仕組みについて簡潔に…
やっかいなものだな。 つくづく、そう思う時があります。 死ぬのは難儀だ。 生きるのも、難儀。 だんだん、そう考える頻度が多くなってきた気がする。 よくない傾向です。 でも止まらない。 (p.180「終章 五十歳の辞世」) 日本は2038年頃をピークに、「多…
いつなんどき、髑髏になってもかまわない。 50歳を越えて、歳を重ねるにつれ、死ぬのが怖くなってきたという人が増えている。自分の「死生観」をもっていないから、「おのれの死」が「いきなり深い穴に落とされるような恐怖」なのだ。 しかし、誰もが死ぬ。…
通勤本として読了。おなじみのフランス現代思想家やフランクフルト学派、ペーター・スローターダイクやウルリッヒ・ベック、アンソニー・ギデンズ、ウォーラーステイン、アマルティア・センまで主要思想家を1人4ページで解説。ほかに、現在進化中の思想家と…
…教養としての神学というのはありえません。行動の武器としての神学というのもありえません。神学とはそのような、何かと結合できるようなものではありません。(略)人間は神学を研究すると、必ず変容していきます。テキストを読むことは、テキストによって…
自由と宿命は『矛盾するもの』ではなく、むしろ『位相の違うもの』である。ほんとうに自由な人間だけが、おのれの宿命を知ることができる。(『仏教入門』p.21) 宗教は「いきなり」わからない、ということを巡る思索。
共通の古典をもたない社会は野蛮に近づいたということではないか (p.284) 大著『日本文学史序説』の、著者自身による注解。
受験参考書を毎日10ページずつほど、「読み物」のように読む。意外と面白い。よくも悪くもバランスのとれた構成。マクニールの『世界史』の大半が、西欧世界成立に至る中世までの記述に重点が置かれているのとは対照的。 2008年刊行の初版で、誤植、そのほか…
なかなか見つからなくていまいましい(goddamn)素粒子、転じて「神の素粒子」と呼ばれたヒッグス粒子と目される新たな素粒子の発見が2012年7月4日、スイス・ジュネーブで開かれたCERNのセミナー席上で発表された。詰めかけた研究者たちは総立ちで、しばらく…
新・帝国主義の時代において国家機能が強化されようとしていることはここまで述べてきました。国家と同時に社会も強化される必要があります。そのためにはどうすればよいか。 (略) その中で気をつけなければいけないのが、民族というアイデンティティで、…
久しぶりに週末、仕事でなく読書に時間が当てられる。本書は功利主義者による読書術。週刊東洋経済に連載中のエッセー「知の技法 出世の作法」の中から、読書に関する部分を大幅に加筆、編集したもの。 「本に囲まれた仕事場」「本は『汚く』読むことが大切…
彼ら(ソクラテスやプラトン)は、〈叡智〉を意識的に探しもとめ、存在者の統一を可能にしているのは〈なんであるか〉を問おうとします。 しかし、ハイデガーに言わせれば、存在に随順し、それと調和し、そこに包まれて生きるということと、この存在をことさ…
どうか忘れないでください、記憶なしではよきことは起こりえないことを。歴史は公正な記憶をさしだすためにあり、そうした記憶こそが過去を通してみなさんの現在と未来を照らし出すのだということを。 (p.147-148) 本書はアナール派第三世代のリーダーと目…
技術にはそれ独自の論理があり、それに従って自己展開していく。どこまでも自己を分化させ、自分のもつすべての可能性をとにかく現実化しようとし、その結果が人間にとって有益であるか有害であるかなどはまったく顧慮しない。技術とはそういったものではな…
われわれは、3.11の悪夢を突き抜けるような仕方で、覚醒しなくてはならない。われわれに必要なのは、夢から現実へと退避する覚醒ではなく、夢に内在し、それを突き抜ける覚醒、夢よりもさらに深い覚醒である。 「夢よりも深い覚醒」とは、大澤真幸の社会学の…
小林秀雄は、日本に於ける近代的知性の誕生を、「学問する知性の誕生の時」と捉えた。そのように設定した時、日本の近代=知性の始まりは、近世にまで溯る。 (p.64) 《もう、終りにしたい。》で結んで、グルグル回りの円環構造にしてしまった小林秀雄の『…