佐藤勝彦 『相対性理論から100年でわかったこと』

 「重い物質のまわりでは空間が曲がり、時間は遅れる」というアインシュタイン一般相対性理論と、「ミクロの物質の正体は波であり、その未来はサイコロが決める」とした量子論。現代物理学は、20世紀初頭に「発見」されたこの2つの革新的な理論を両輪として、飛躍的な発展を遂げてきた。とりわけ、不確定性原理は「哲学的な意味での『無』や『ゼロ』という状態は、物理的にはありえない」という重要な真理を提示した。そこからミクロの粒子と反粒子のペアが生成しては消滅する「真空の揺らぎ(量子揺らぎ)」というアイディアが生み出されていく。「無からの宇宙創生論」という現代の“創世神話”の誕生だ。
 
 一方で、この一般相対性理論量子論を融合させた「量子重力理論」は、21世紀の現時点で未だに完成していないという。こうした中で、素粒子物理学の最新理論である「超ひも理論」によると、空間には私たちの知らない別の次元(余剰次元)が6つあるいは7つあるのだという仮説が立てられる。
 
 現在の宇宙論における最大の謎は「暗黒エネルギー」の解明だという。こうした中、ブレーン宇宙論(宇宙は高次元時空に浮かぶ薄膜だという仮説)やM理論、仏教の宇宙観「曼陀羅」にも似たマルチバースといった仮説が次々と生み出されている。問題は、こうした最新理論が果たして観測的宇宙論のアプローチから実証されうるのかという点だが、「人間原理で説明して終わりとしてはならない」というのが著者の一貫して変わらないスタンスだ。
 
 物質を形づくる「フェルミオン」と力を媒介する「ゲージボソン」、さらに物質に質量を与える「ヒッグス粒子」からなる標準理論をはじめ、「対称性の自発的な破れ」「反粒子」「宇宙膨張」「宇宙の無境界仮説」の説明など、コンパクトに俯瞰できる構成となっている。