呉智英 『つぎはぎ仏教入門』

 仏教、と聞くと、さまざまなイメージが浮かぶだろう。例えば、奈良・京都の古刹名刹。それを開山した宗祖たち。またそこに祀られた荘厳な仏像。そしてその仏像の前で各宗派の高僧たちが読むお経。
 ところで、仏教のそもそもの宗祖は釈迦である。釈迦はその弟子や信徒たちと、どんな仏像を拝み、その前でどんなお経を唱えていたのだろうか。
(略)
 釈迦以前に仏教はない。釈迦が仏教の宗祖だからである。宗祖釈迦と弟子や信徒たちが仏像を拝んだということはありえない。仏像が存在しないからである。釈迦と弟子や信徒たちがお経を唱えたということもありえない。お経が存在しないからである。

(「はじめに」p.10-11)
 
 江戸時代中期大阪の思想家・富永仲基に始まる「大乗非仏説論」を紹介し、翻って「釈迦は何を悟り、何を説いたか」という、まさに仏教の根源を、阿含教典の記述に基づき検証する。
 
 あらゆる生きものに対して暴力を加えることなく、あらゆる生きもののいずれをも悩ますことなく、また子を欲するなかれ。況んや朋友をや。犀の角のようにただ独り歩め。
(「ブッダのことば ―スッタニパータ―」第一 蛇の章)
 
 ウパニシャッド哲学が説く「梵我一如」の秘儀と、それを徹底して否定した原始仏教。「無我という難問」をめぐっての考察など、仏教の思想的核心にスリリングに迫るユニークな「仏教入門書」。