島田裕巳 『教養としての世界宗教史』

 宗教がない国というものは存在しないし、宗教をもたない民族も存在しない。――そうであるならば、宗教の起源とはいったい何であったのか。
 
 直立二足歩行という身体的な変化は脳の発達を促し、喉の構造の変化が(音声としての)言語の獲得に繋がっていく。著者は、「直立姿勢のおかげで、空間はヒト以前の存在には無縁な構造――『上』-『下』を貫く中心軸から水平にひろがる四方向――に組織された」というミルチア・エリアーデ世界宗教史』の一節を引きながら、空間的な広がりと宗教のはじまりについて言及する。一方で、「最古の人類が何らかの宗教的な観念をもっていた具体的な証拠を見いだすこと」は難しい。そこから、フロイトの有名な「父殺し」、あるいはフレイザーの「王殺し」など、宗教の原初的な形態に関する“起源探し”が紹介されるが、いずれも証明が不可能な仮説に過ぎない。
 
 キリスト教世界のなかに、マニ教とレッテルをはられる異端が絶えず生み出されてきたのは、絶対の善である神が創造した世界に、なぜ悪がはびこるのかという根本的な矛盾が存在したからである。その意味では、唯一神教の形成は、異端という存在をつねに生み出していくとも言えるのである。 (「ゾロアスター教が後世に多大な影響を与える」 p.49)
 
 「謎に満ちた巨大ピラミッドの建設」をはじめ、ゾロアスター教マニ教の発生、パウロアウグスティヌスの回心、インドでの仏教の消滅、異端審問、聖母マリア信仰、ダライ・ラマ14世のインド亡命など、24の宗教的事件をコンパクトに紹介。