BOOK REVIEW

スティーヴン・ホーキング 『ホーキング、宇宙と人間を語る』

なぜ、この宇宙は存在しているのでしょうか? どうして無ではないのでしょうか? なぜ、私たちは存在しているのでしょうか? なぜ、自然世界の法則は今あるようになっているのでしょうか? どうして、ほかの法則ではないのでしょうか? 本書は、このような3000年…

村山斉 『宇宙は何でできているのか 素粒子物理学で解く宇宙の謎』

ダン・ブラウン『天使と悪魔』における「反物質」や、村上春樹『1Q84』の「並行宇宙論」などを例に挙げるまでもなく、最新の宇宙論にアイディアを得たSF作品は枚挙に暇がない。半面、「ニュートリノ」だの「暗黒物質」「4つの力」などと言われても、それら物…

大江健三郎 『みずから我が涙をぬぐいたまう日』

1968年に「楯の会」を結成、前後して『文化防衛論』などを著し、2年後の70年11月25日に陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地にて割腹自殺を遂げた三島由紀夫には、ある種「右翼作家」のレッテルが濃厚につきまとっている。半面、『中央公論』60年12月号に発表された深沢七…

井上隆史 『三島由紀夫 幻の遺作を読む ――もう一つの「豊饒の海」』

死後公開された創作ノートによると、三島由紀夫の遺作『豊饒の海』は当初、全五巻での筋立てが構想されており、最終巻『天人五衰』も、実際の完成作とは真逆な結末を持つプランが繰り返し構想されていたという。 本書では、なぜ当初の構想が放棄されるに至っ…

中沢新一+坂本龍一 『縄文聖地巡礼』

縄文中期の遺跡群を見てみると、死者と生者が入り交じる状態をつくっていますよね。村の中央には墓地があって、空間的にも死者と生者が共存しているし、一日の時間のなかでも、昼間は生者の世界だけど、夜は死者が入り込んでくる。生者の世界と死者や精霊の…

水野和夫+萱野稔人 『超マクロ展望 世界経済の真実』

元三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフエコノミストで、内閣府の官房審議官 経済財政分析担当を務める水野和夫氏と、国家論などに関する著作のある若き哲学者・萱野稔人が、アメリカの「金融帝国化とその終焉」を背景とした今日の資本主義経済の臨界点を…

島薗進 『国家神道と日本人』

「国家神道とは何かという問いは、戦前の天皇崇敬や攻撃的な対外政策に宗教がどのように関わっていたかという問題と大いに関わりがある。またそれは、第二次世界大戦後の日本で信教の自由や思想・良心の自由がどのように保たれてきたか、また、今後、どのよ…

中川右介 『昭和45年11月25日』

昭和45年11月25日の当日、三島由起夫の「死」に何らかの形で触れ、後日それについて発言した120余人の文献、資料の断片をモンタージュし、時系列に再配置してみせた「虚構のドキュメンタリー」。 《たった今ああした事件が起こったばかりなのに、あるいはそ…

絲山秋子 『逃亡くそたわけ』

8月の初旬、福岡への出張が決まった時、koma2さんが「旅の参考に」と貸してくれたものの、予算その他の都合で旅行を断念することになり(予定では熊本から高千穂に入り、磨崖仏方面に抜けるはずだった)、そのまま借りっぱなしになっていた。従って、本書を…

東浩紀・編 『日本的想像力の未来』

リアル・ポリティクスから切断された「ゼロ年代批評」の不毛にある種の不快感、苛立たしさを感じないではいられないのは、その提示する批評性が「現実にまったく言及しない異様な何か」だからなのかもしれない。インマチュア(未成熟)やクイア的主体、コク…

三井環 『「権力」に操られる検察』

鈴木宗男事件は、9月15日に最高裁第一小法廷が上告棄却決定に対する異議申し立てを棄却。懲役2年の実刑、追徴金1100万円とした一、二審が確定した。一方、郵便不正事件に関しては、主任検事による押収品のFDデータ改竄という「検察史上前例のない不祥事」を…

マイケル・サンデル 『これからの「正義」の話をしよう』

「1人を殺せば5人が助かる状況があったとしたら、あなたはその1人を殺すべきか?」 この難題は、現代政治を動かしている「正義」の複雑さを象徴しているようにみえる。 「正しいことをする」とはどういうことなのか。「幸福の最大化」を至上命題とする功利主…

内田樹 『街場のメディア論』

本書は、神戸女学院大学での講義科目「メディアと知」での内容をベースに(こりこりと加筆修正しながら)まとめられた一冊だ。しかし、表題から連想されるような「メディアの現状」であるとか、「メディアの未来予測」に紙幅が割かれてあるわけではない。現…

内田樹 『現代人の祈り 呪いと祝い』

「呪いと言祝ぎ」というテーマについて、内田樹は今年1月にエッセー集『邪悪なものの鎮め方』を上梓しており、お馴染みの内容をホスト役・釈徹宗のもと、内田との対談、あるいは精神科医・名越康文との鼎談で解きほぐすという構成となっている(釈と名越の対…

市川真人 『芥川賞はなぜ村上春樹に与えられなかったのか』

島田雅彦は1983年に『優しいサヨクのための嬉遊曲』でデビューし、その年の芥川賞候補に選ばれたが、「以後わずか四年間=八回のうち、五度(初回を入れれば六度)芥川賞の候補になり、そのことごとくに落とされ続け」(p.261)た。 「じつはこの時期、とい…

小谷野敦 『天皇制批判の常識』

近作では、『日本文化論のインチキ』(幻冬舎新書)など知的刺激に溢れた書を量産しつつある小谷野敦だが(それはヘーゲルの『歴史哲学』から始まった〜文化の本質などという“ないもの探し”をするな)、本書も例によって期待を裏切らない面白さ。保守、左翼…

松本健一 『日本のナショナリズム』

北一輝の評伝等で名高い著者が、2007年から09年半ばにかけて、仙石由人をはじめ民主党の中堅議員らに日本の近現代史を連続講義した内容を再構成した書。 「ロマン主義精神の北一輝の精神や思想の中に入り込んで書くだけではなくて、その対極に立つリアリスト…

高橋源一郎 『「悪」と戦う』

この小説を読み終わって、アクセスしたネット上にこんな記事が見つかった。 虐待児の頭の傷、DB化 産総研など、正確な診断目指す (www.asahi.com 2010年5月30日3時1分) 国立病院機構大阪医療センターや産業技術総合研究所(産総研)などのグループは、虐…

清水真木 『これが「教養」だ』

この奇妙なタイトルのもと、奇妙な文体によって物されたこの一冊は、文部科学省の競争的資金・科学研究費補助金(科研費)基盤研究Cに採択された同氏の研究テーマ「尊敬と公共性の哲学」の成果の一部だという。であればこそ、市場に量産されたいわゆる「教養…

井上勝生 『幕末・維新 ――シリーズ日本近現代史1』

歴史学とは、つねに異論の狭間に成り立つ学問なのではないだろうか。日本近現代史という、今日から遡ってわずか150年余の史実の「真実」も精確に掴むことはできない。その意味で歴史学とはまさしく「不可能の学問」だと言えるだろう。 岩波新書シリーズ日本…

高橋昌一郎 『知性の限界』

完全に民主的な社会的決定方式は存在しないことを証明したケネス・アロウの「不可能性定理」、量子力学で記述される粒子の位置と運動量を同時に正確に測定することはできないことを示したハイゼンベルクの「不確定性原理」、システムSが正常であるとき、Sは…

岡嶋裕史 『数式を使わないデータマイニング入門  隠れた法則を発見する』

規定した法則の「事後検証」を指向している統計分析に対し、「未来予測」を指向するのがデータマイニングである。 セブン-イレブン・ジャパンが最初に運用したPOSシステムに見られるように、CRM(Customer Relationship Management)をはじめとする企業の営…

大屋雄裕 『自由とは何か ――監視社会と「個人」の消滅』

日本郵政グループ従業員の「お金の管理に絡んだ犯罪(1万円以上)」が2009年度に42件あり、被害総額は20億1200万円に上ったという(www.asahi.com「日本郵政の従業員犯罪、被害総額は20億円 09年度」)。08年度は53件、3億4600万円で、被害総額は約6倍に…

角川歴彦 『クラウド時代と<クール革命>』

「著者が最近のIT事情を一生懸命勉強したのは分かるが、結局何が言いたいのか分からないし、業界に詳しい人は読む必要はない」と、巷間のネット評論家は辛口の評を下しているが、業界にさして詳しくないわれわれにとってはお買い得な1冊と言える(何といって…

アイリーン・マグネロ 『マンガ 統計学入門』

英国では、ヴィクトリア朝時代に大量の人口統計データを政府が収集し、統計的手法によって国の状態を把握することがおこなわれ、その結果、政治改革が進み、公衆衛生法が確立されました。人口統計の世界では当初、統計的なバラツキとは欠陥であり、根絶すべ…

村上春樹 『1Q84 BOOK 3』

起承転結の規則からいうと、「BOOK 3」は1Q84ワールドの“大団円”につなぐための重要なブリッジを構成しているように見える。 かつて、ある評論家は村上春樹について、「彼は『国民的作家』になるタイプではない」と正しく評したが、物語世界の前衛を指向する…

寺島実郎 『世界を知る力』

「にっぽん音吉」やジョン万次郎、大黒屋光太夫ばかりではない。江戸時代に遭難して他国に流れ着いた漂流民の数は、実は数千人にも上るという。一方で、ピョートル大帝が「ヨーロッパへの窓」サンクトペテルブルクに日本語学校を開設したのは1705年。実に、…

依田高典 『行動経済学』

行動経済学とは、人間の限定された合理性を中心に「最適な行動からの乖離(アノマリー)を経済分析の核にすえる」学問のことである。よく知られるように、現代の主流派経済学は「ホモエコノミクス」(超合理的人間)を仮定して理論づけられているが、ノーベ…

濱口桂一郎 『新しい労働社会 ――雇用システムの再構築へ』

終身雇用制度と年功序列制度、企業別組合の三つは日本型雇用システムの「三種の神器」と称される。ところで、雇用契約はモノではなく、ヒトの行動が目的であるから、根源的に「不確定性」を孕んでいる。そもそも、労働問題の基本的な枠組みを考える際に、大…

勝間和代+宮崎哲弥+飯田泰之 『日本経済復活 一番かんたんな方法』

近年、メディアで注目を集める評論家2人と、若手経済学者による「日本経済復活=脱デフレ」をめぐる鼎談。デフレの正しい解釈は「価格が下がること」ではなく、「失業が増えること」だ。おカネの供給を増やせばデフレ脱却は可能、そのために政府、日銀が決断…