小谷野敦 『天皇制批判の常識』

 近作では、『日本文化論のインチキ』(幻冬舎新書)など知的刺激に溢れた書を量産しつつある小谷野敦だが(それはヘーゲルの『歴史哲学』から始まった〜文化の本質などという“ないもの探し”をするな)、本書も例によって期待を裏切らない面白さ。保守、左翼云々ということではなく、「天皇(制)」のアポリアを著者独特の小気味よい文体でストレートに抉ってみせる。
 
 「ナショナリスト」「ロイヤリスト」の定義など、その切れ味は小谷野ならでは。光明皇后の「易姓革命」(関連して道鏡、尊氏…)、南北朝正閏論など、この紙幅でギリギリの情報を詰め込んでいる。
 半面、その第4章の章題がみせる全体の中でのアンバランス感、あるいは第5章以下、慌ただしく結末に向かってピッチが上がってしまった構成など、編集者の裁量に疑問が残った(ついでにいえば、終章の『東大駒場学派物語』をめぐっての一節なども読んでいて息苦しいだけである――小谷野ファンとしては、黙って見守るしかないのかもしれないが)
 
 ともあれ、『日本文化論の…』でもみせてくれた、出雲神話や明治期の廃仏毀釈なども含めた決定版を、(編集者の腕でレベルが乱高下してしまう「新書」などではなく)新潮選書あたりのボリュームでぜひとも上梓してほしい。