松本健一 『日本のナショナリズム』

 北一輝の評伝等で名高い著者が、2007年から09年半ばにかけて、仙石由人をはじめ民主党の中堅議員らに日本の近現代史を連続講義した内容を再構成した書。
 
 「ロマン主義精神の北一輝の精神や思想の中に入り込んで書くだけではなくて、その対極に立つリアリスト斎藤隆夫についても(…書くことに…)よって、国民国家の思想や天皇機関説において両者が似通っていることに気づいた」(p.114)
 
 「西田幾多郎は戦前、思想としてはアジアに文化的な多元性を認めつつ、東アジアの文明的な一体性を主張して、その東亜ブロック化の思想が大東亜共栄圏の構想につながった。それは、是非はともかく、日本人が初めてもちえた国際的なヴィジョンだったかもしれない。
 しかし、そういったヴィジョンをもっている政治家のほうこそが戦争を起こしやすい、とも言える」(p.120)
 
 斎藤隆夫北一輝を対比し、「革命的ロマン主義と政治的リアリズム」といった視点から近衛文麿を論じたり、石橋湛山の「小日本主義」に着目するなど興味深い内容。ナショナリズムを超えるパトリオティズム、西洋の「民主」との対比としてのアジアの「共生」、アジア・コモン・ハウスの創設、など。