角川歴彦 『クラウド時代と<クール革命>』

 「著者が最近のIT事情を一生懸命勉強したのは分かるが、結局何が言いたいのか分からないし、業界に詳しい人は読む必要はない」と、巷間のネット評論家は辛口の評を下しているが、業界にさして詳しくないわれわれにとってはお買い得な1冊と言える(何といっても角川GHGが総力を結集して世に問うた入門書である。ただし、ICTを少し本格的に学ぶなら、東洋経済から出ている野村総研の『ITロードマップ』や『これから情報・通信市場で何が起こるのか』あたりを読むべきか)。
 
 …ということで、音楽も書籍も映像もゲームも、今日ではすべてが「デジタルコンテンツ」となった。これらはインターネットを通じて個人に「電子的に」提供される。iPadはそれらのサービスをバンドルした究極の情報端末だ。角川GHGは、2014年には画像処理で画期的なチップが開発され、「映画の本格的なネット配信」の時代がやってくるだろうと予測する。「コンテンツの大バンドル」時代の到来だ。
 
 一方で、「情報と知識」のグローバリゼーションに乗り遅れたのが日本である。「B to C のクラウド・サービスが本格化する時代を迎えると、彼ら(アメリカ勢)は習得したノウハウを駆使してクラウド上に著作権管理を新たなビジネスチャンスにする可能性は十分にある。コンテンツ産業アメリカ勢に著作権管理ビジネスに参入させるような事態を回避すべきだ。…失った『知の市場』をこれ以上拡大させてはならない」(p.139)
 
 そして、21世紀メディアの飛躍的発展は、商業主義による文化の根底的破壊をも、もたらしかねない危険性を秘めている(前フランス国立図書館長ジャン=ノエル・ジャンヌネー 『Googleとの闘い 文化の多様性を守るために』)。「広告が持つ、コマーシャリズムの圧倒的な影響力を人々が恐れていないことに、驚く」(p.145)。
 
 巨大な「規模の経済」を生むクラウド・コンピューティング。「我々は人に読んでもらうために本をスキャンしているのではありません。AIに読ませるためにスキャンしているんです!」(『クラウド化する世界』)と嘯くグーグルの技術者。1940年代にトーマス・J・ワトソンは「コンピューターの世界マーケットは5台である」と語ったというが、分散から集約、そして統合へと向かう21世紀のクラウド時代においては、奇妙にねじれた「ワトソンの予言」が再び甦るかもしれない。その先にあるのは「自由」の世界か、それとも「支配」の世界なのか?