アイリーン・マグネロ 『マンガ 統計学入門』

 英国では、ヴィクトリア朝時代に大量の人口統計データを政府が収集し、統計的手法によって国の状態を把握することがおこなわれ、その結果、政治改革が進み、公衆衛生法が確立されました。人口統計の世界では当初、統計的なバラツキとは欠陥であり、根絶すべき誤りだとされましたが、これに対してチャールズ・ダーウィンが、生物学的バラツキという考え方や種を統計的母集団とみなす考え方を唱えました。ダーウィンのこの考え方は、その後、新しい統計的方法論を生む土壌となります。(p.183「まとめ」より)
 
 統計学国勢調査をはじめ結婚統計や離婚統計、犯罪統計などに代表される「人口動態統計」と、バラツキを科学的に分析する学問である「数理統計学」に分けることができる。このうち、国勢調査として人口をカウントする「人口動態調査」は、古代のバビロニアでもエジプトでも中国でも行われていた。徴兵対象者や租税の調査が目的だが、1798年には経済学者マルサスが『人口論』を著し、「人口は幾何級数的に増加するのに対し、食糧生産は算術級数的にしか増加しない」という仮説のもと、人口抑制の必要性を説いた。
 
 その後、1834年にはロンドン統計学会(後の王立統計学会)が設立され、1851年には第1回の国勢調査が行われる。ここから統計学を活用した公衆衛生改革が始まるのだが、この時代の最も有名な「情熱的な統計家」といえばフローレンス・ナイチンゲール(「神の考えを理解するためには統計学を学ばなければだめ。統計学は神の意志をはかる方法だから」)だろう。クリミア戦争における死亡統計として、ナイチンゲールは「鶏頭図」を考案し、統計学に基づいた医療衛生改革を促した功績により、世界的な名声を得ることになる。
 
 ブルー・バックスらしいイラスト(ボリン・V・ルーン)たっぷりの構成で、「正規分布」から「平均への回帰」「最小二乗法」「カイ2乗検定」「t検定」…まで、およそ2時間足らずで大学初年次で履修する統計学の「歴史的背景」を概観することができる。