水野和夫+萱野稔人 『超マクロ展望 世界経済の真実』

 元三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフエコノミストで、内閣府の官房審議官 経済財政分析担当を務める水野和夫氏と、国家論などに関する著作のある若き哲学者・萱野稔人が、アメリカの「金融帝国化とその終焉」を背景とした今日の資本主義経済の臨界点を見極め、21世紀世界経済の「超マクロ展望」について語り合ったもの。
 
 わが国の巨額な財政赤字問題を考えた時、資源価格の高騰による構造的な「先進国総デフレ化時代」にあって、いわゆる「リフレ派」の提言する円安、インフレ待望論では所得の海外流出は防ぎきれない、というのが大まかな結論だ。財政再建のタイムリミットは人民元自由化が予測される10数年後まで。低成長時代の制度設計が不可欠であり、環境規制など、従来ならば経済活動を阻害するものとして考えられてきた「規制」そのものを新産業育成のビジネスチャンスとして捉える知的戦略が不可欠という。
 
 本書では、リフレ派を乗り越える新規の経済理論が提言されているわけではないが、親ナチス派法学者カール・シュミットをはじめ、歴史人口学者エマニュエル・トッドドゥルーズ=ガタリ(平滑空間)、ベネディクト・アンダーソンなど、世界資本主義の歴史を俯瞰するための「知」の横断的な参照・言及が刺激的。とりわけ、水野氏は民間エコノミスト出身ながら、「既存の経済学や金融理論だけでは解決できない問題」を考察するために、フェルナン・ブローデルやイマニュエル・ウォーラーステインなどの歴史書思想書を渉猟しているという。「中世の封建制社会が絶対王政もふくめた近代主権国家に変わっていく」16世紀を重ね合わせながら、経済と政治の親和性について萱野氏と討議するくだりは極めてスリリングだ。