クロード・シモン 『三枚つづきの絵』

 「絵葉書」の描写から、「絵葉書」の置かれている「空間」の描写へ…
 徹底した「物」の記憶
 
  谷間から部落のはずれへ  《イタ公》と子守女の密会
  テーブルの上の兎の死体
  少年の幼い妹の「溺死」
 
  サーカスのポスター
  映画のポスター
 
 時間の配列を無視して提示される不連続的な「物」の記憶が、「三枚つづきの絵」という物語を創造する。
 
 風景は「語られること」によって読者に「語り始める」。死んだ物=語が物語の「死」を語り始める。
 
 読者に畳みかけるように語り続けられる「物語」。だが、その語り口は決して饒舌ではなく、あくまで静謐だ。そこに作者の冷徹な計算が見え隠れする。
 
 恐ろしく「閉じた小説」。──小説が言葉で編まれるものであるとするなら、その極北にある小説。あらゆるものが静止しながら、次の瞬間にはすべてが消滅してしまいそうな、激変する物語空間の一瞬をハイスピードカメラで切り取ってしまった、その一瞬をあらゆる言葉の技巧で描写した「物語なき物語」のようでもある。ぼくらはこの小説を経験することによって、物語の「開かれ」を経験する。