ジェイムズ・ジョイス 『ユリシーズ』

第1部
  1 テレマコス (塔)
  2 ネストル (学校)
  3 プロテウス (海岸)
 
第2部
  4 カリュプソ (家)
  5 食蓮人たち (浴場)
  6 ハデス (墓地)
  7 アイオロス (新聞社)
  8 ライストリュゴネス族 (昼食)
  9 スキュレとカリュブディズ (図書館)
 10 さまよう岩々 (市街)
 11 セイレン (演奏室)
 12 キュクロプス (酒場)
 13 ナウシカア (岩場)
 14 太陽神の牛 (病院)
 15 キルケ (娼家)
 
第3部
 16 エウマイオス (馭者溜り)
 17 イタケ (家)
 18 ペネロペイア (ベッド)
 
1904年6月16日 木曜日  「ブルームズデー」の一日
 
中年の広告取り レオポルド・ブルーム = 神話的英雄ユリシーズオデュッセウス
不貞の妻 モーリー   =   ペネロペイア
文学青年 スティーブン・ディーダラス = テレマコス
 
 『ユリシーズ』を初めて読んだのは高校時代のことで、B6判、透明のビニールのかかったグリーンの箱入り「河出版世界文学全集」は今も手許にあるが、下巻459ページ、「ペネロペイア」の章の最後のページには、「吐き気がした」という当時の鉛筆書きが残っている。
 その読書体験は、文学理論や方法に無防備な高校生にとっては、余程腹の立つ代物だったのだろう。ジョイスがこの作品の中で、あらゆる「文体の実験」を行ったらしいことは知っていたが、有名な最終章の訳文は漢字と句読点が一切なく(丸谷才一、永川玲二、高松雄一訳)、ひたすら「ひらがな」と「カタカナ」の交ぜ書きで、眠りの中に落ち込んでいくモーリーの独り言―意識の流れ―を追いかけている(直前、17章「イタケ」もQ&A形式の、いま読むと医薬品の効能書きみたいな文体で笑えるのだが)。とりわけ「そうよ」「ええ」「そう」といった台詞にいちいち「イエス」とルビを打っている訳文の「気分」というか「恣意性」が許せなかったのかもしれない。
 そういえば96〜97年に、ばらばらの形で、やはり河出書房新社から単行本が刊行された柳瀬尚紀の翻訳は、その後どうなったんだろう(Amazonで確認したけれど、3冊を上梓したきり途切れている)。十数年もたってしまったら、当時の担当編集も編集長も、みんな辞めたり外れたりしてるんじゃないだろうか。