スピンゼロ素粒子

ヒッグスの特徴「スピンゼロ」 素粒子研究に新側面 (www.asahi.com 2013年3月21日8時38分)
 
 万物に質量をもたらすとされるヒッグス粒子をめぐって欧州合同原子核研究機関(CERN)が14日に発表した見解は事実上、その発見宣言だった。昨夏に報告された新粒子が「スピンゼロ」というヒッグスの特徴を備えているらしいとわかったからだ。スピンのない素粒子の登場こそがヒッグス発見の大きな意義とみられている。
 
 いま標準とされる理論では、究極の素粒子がヒッグスを含めて17種ある。スピンという性質は、電子など物質の粒子は2分の1、電磁力を伝える光子など力の粒子は1。ヒッグスだけがゼロと予想され、それを見極めることがヒッグス発見の最大の鍵とされてきた。
 
 素粒子のスピンは自転のイメージに似ているが、地球やボールの回転とは異なる。「粒子にとって空間がどう見えているかを示している」と、実験にあたるATLASチームの浅井祥仁東京大准教授。ヒッグスがのっぺりした真空の空間に結びついた粒子であることが、スピンゼロにつながっているという。
 
 スピンゼロ素粒子の出現は、物理学の流れに大きな影響を与える。
 
 たとえば、標準理論を超えて、多様な力を一つの枠でとらえることをめざす「超対称性理論」の現実味が高まることだ。これは時空と密接にかかわる理論で、スピンゼロの素粒子群が出てくる。
 
 理論研究者の間には、ヒッグスにも本当はスピンがあるという見方もある。スピンは4次元時空以外の空間に隠れているというのだ。見えない次元の探究も盛んになるだろう。
 
 こうした流れのなかで、素粒子の研究は物質だけでなく、その入れ物である「空間」の様子を探る側面を強めそうだ。
 
 ヒッグス発見がほぼ確定したことで、戦後急進展した素粒子物理学は大きな区切りを迎える。