500ページ超の宇宙的数学

難問「証明」望月教授、世界が注目 19歳で名門大卒業 (www.asahi.com 2012年10月3日16時07分)
 
 京都大の教授が、世界の数学者の頭を悩ませてきた未解決の難問「ABC予想」を証明したと数学誌に投稿し、驚きが広がっている。論文は500ページにおよび、専門家でも正しいか確かめるのに数年かかるという。米の名門プリンストン大を19歳で卒業したという経歴もあり、論文提出から1カ月がたっても興奮が冷めやらない。
 
 話題の中心にいるのは、数理解析研究所望月新一教授(43)。研究室のホームページ(HP)に「宇宙際タイヒミュラー理論」と題する4章にわたる英語の論文を載せたのは8月30日。直後から、世界中の数学者が集まるネットのサイトが騒然となった。
 
 「ABC予想が解けたって本当?」「さっぱり分からないんだけど、誰か解説して」
 
 数理研助教授を経て、米カリフォルニア工科大で物理と数学の教授をしている大栗博司さんは、同僚が「モチヅキの何年も前の論文から勉強しないと」と話すのを聞いた。「アイデアが美しいのは一致した見方。解けていれば、数学だけでなく、物理などほかの科学の考え方にもインパクトを与えそうだ」と話す。名古屋大の藤原一宏教授は「彼のアプローチは、空間とは何かという哲学的とも言える問題に関係している。考え方そのものに大きな可能性、価値がある」と言う。英科学誌ネイチャーもニュースとして速報した。
 
 数学には、米クレイ数学研究所が2000年に100万ドルの懸賞金をつけた「ミレニアム問題」が7問ある。このうちポアンカレ予想は、ロシアの数学者グリゴリー・ペレルマンが03年までに証明。数学のノーベル賞と言われるフィールズ賞を06年に贈られたものの、受賞を辞退してさらに話題となった。
 
 ABC予想は7問には入っていないが、数学者の話を総合すると、多くの問題の根幹にかかわる重要な存在。約350年かけて遠回りしながら解かれたフェルマー予想が直接解けるほか、多くの未解決問題の理解が進む、らしい。
 
 論文は、数学誌が指定する複数の数学者が、間違いがないか確かめる「査読」をして正式に認められる。一方、数学サイトではすでに一部に誤りがあるとする指摘もあった。今後、反論と修正を繰り返しながら完成に近づいていくとみられる。望月さんと同時に日本学術振興会賞を受賞した岡山大の中村博昭教授は「確認に6、7年かかっても不思議ではない。確定するのはみんな忘れたころじゃないですか」。
 
 望月さんは東京都出身。父親の仕事の都合で5歳で渡米し、16歳でプリンストン大に入り、19歳で卒業。23歳で博士号をとった。その後日本に戻り、27歳で京大数理研助教授に、32歳で教授になった。
 
 本人の中で、ABC予想を解くアイデアは、遅くとも2000年代前半にはあったらしい。論文は08年夏から書き始め、進み具合をHPで公表してきた。隣の研究室の玉川安騎男教授は「私なら(40歳以下が対象の)フィールズ賞に間に合うよう、途中までの論文を先に発表しただろう」。名誉よりも理論の完成に興味があるようだ。
 
 4年がかりで書き上げると、取材申し込みが殺到。しかし、望月さんは「査読が完了するまで、取材はお断りしております」とメールの問い合わせに静かに答えるのみで、姿を現していない。
 
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ミレニアム問題
 
P≠NP予想
ホッジ予想
ポアンカレ予想(2003年までに証明)
リーマン予想
ヤン・ミルズ方程式と質量ギャップ問題
ナビエ・ストークス方程式の解の存在と滑らかさ
BSD予想
 
■その他の主な未解決問題
 
ABC予想
双子素数の予想
ゴールドバッハ予想