浅井祥仁 『ヒッグス粒子の謎』

 なかなか見つからなくていまいましい(goddamn)素粒子、転じて「神の素粒子」と呼ばれたヒッグス粒子と目される新たな素粒子の発見が2012年7月4日、スイス・ジュネーブで開かれたCERNセミナー席上で発表された。詰めかけた研究者たちは総立ちで、しばらくの間、スタンディングオベーションが続く。現時点ではまだ、ヒッグス粒子発見と断定することはできないが、ここでのLHCを用いたアトラス実験に参加する日本人グループの物理解析責任者である本書の著者によると、2013年3月頃にも最終報告がなされる見込みであるという。
 
 ヒッグス粒子は真空中に充満し、物質に質量を与え、この宇宙を誕生させた。もしヒッグス粒子がなければ、光は質量がないので、この多様で豊かな宇宙は創造されなかっただろう。そしてこの発見は新しい物理法則、「超対称性理論」と「余剰次元」のアイディアを切り拓いていくものと期待されている。
 
 大きさや質量をもたない素粒子、時間を遡っていく反粒子、720度回転することによって初めて対称性を回復するスピン1/2の素粒子、膜宇宙や10次元の世界など、我々の想像力を越えた素粒子物理学の世界に圧倒される。なお、本書の著者印税は宮城県福島県の災害復興義援金として全額が寄付される。