ロン・ハワード 『天使と悪魔』

 冬休みということで、ダン・ブラウン原作の同名映画DVDを借りて観る。5月15日の世界同時公開前後に、CERNで実際に反物質の研究に携わっている早野龍五がマスコミにコメントを寄せるなど(「現在の技術で、映画にでてくる4分の1グラムの反水素原子を作ろうとしたら、150億年かかります。宇宙の年齢を超えます朝日新聞 4月23日付)大きな話題を集めた映画だ(09年の世界興行収入ランキング7位。ただしこのランキングにジェームズ・キャメロンの『アバター』は入っていない)。実際には、映画版でCERNのシーンは大幅にカットされており、ストーリーの中心は、前教皇の疑惑的な(それは物語の進行とともに明らかにされていく)死を受けたコンクラーベ教皇選挙)を背景として、反物質の「破滅的爆発」というタイムリミットが迫る中、連続して起こる4人の教皇候補者殺害をめぐる謎解きのサスペンスに力点が置かれている。
 
 空中から俯瞰したサン・ピエトロ大聖堂や天井画が美しいシスティナ礼拝堂、カラヴァッジョの「聖ペテロの磔刑」、ロトンダ広場のパンテオン、エジプトのオベリスクと四大河の噴水など、ローマ/ヴァチカンの圧倒的なロケーションが見所(とはいえ、「セブン・イヤーズ・イン・チベット」の大半がアルゼンチンやネパールで撮影されたように、本編でもセット撮影やCGのリアルさが息を呑むのだが)。マネー・ロンダリングで最近話題になった「ヴァチカン銀行」も登場する。
 
 反物質の「解明」が、宇宙開闢という根源的な謎を解き明かすカギとするならば、ローマ・カトリックと先端科学技術との「対峙」というテーマ自体、興味をそそられるものではある。そこに、(『ダ・ヴィンチ・コード』の「オプス・デイ」に代わって)今回は「イルミナティ」が登場し、ガリレオ・ガリレイを系譜とする“暗黒歴史”が示唆されるのだが、それにしても、このストーリーに秘密結社は「語りすぎ」ではなかったか。筋立ての仕掛けが多すぎる分、見終わってみて消化不良の感は否めなかった。ラングドン教授がハーヴァード大学で「宗教象徴学」を研究しているにもかかわらず、ラテン語にもイタリア語にも通暁していないのは愛嬌か?