ジョン・ケージ 著作選

 ラサール弦楽四重奏団の演奏する、シェーンベルクの『浄夜』は実に素晴らしいレコードだったが、先ほどAmazonで検索したところ、グラモフォン盤『新ウィーン楽派弦楽四重奏曲集』はすでにコレクターズ商品になっていて、およそ2万円近い値がついていた。
 
 実に、こういうことがあるから、珍しいアイテムは何でも早めに手に入れなければならない。小説なら例えばピンチョンの『重力の虹』。刊行当時は大型書店で平積みになっていたものだが、今や絶版状態で、下巻には8,500円の値がつけられている。
 そんな中、ちくま学芸文庫が最近、「ジョン・ケージ著作選」という小さな本を刊行した。シェーンベルクの弟子に当たる前衛音楽家、ケージの著作といえば取りあえずは『小鳥たちのために』が思い浮かぶが、本書は文庫という気安さから、早速手に入れてみた。
 
 レイアウトの奇抜さは、その奇抜さゆえにかえって驚きはない。巨大なフォント、明朝とゴシック、スミアミ、JOYCE、METHODとSTRUCTUREの交錯、12音階…。それらの創意は文章を「読む」行為から文字そのものを「見る」行為へと意識の変革を強いる。菌類学(mushroom/music)への強烈な意志、電子的音楽、作曲家連盟…。実際に、ここで何が書かれているのか、ぼくにとっては何の意味もなさない。ブーレーズシュトックハウゼン、ノーノ、マデルナ、プスール、ベリオ、――そしてジョン・ケージ。彼らの音楽を聴くことは可能か?