曽根幸子+滝本誠 『アート系映画 徹底攻略』

ホテルで会った女性に「去年、共に発つと約束したはず」と迫る男、記憶にないと拒絶する女、二人を見つめる女の夫(?)。彼らの名も明らかにされず、物語としての起承転結もなく(この映画は時間に沿って伸びてゆくのでなく、時間の曖昧なそれ自身の内へ螺旋を描いて穿孔しつつどこまでも降りてゆく)、誰の言葉が真実かも分からない(どれも本当ではないのかもしれない)。長い廊下をどこまでも動いてゆくカメラ。逆に、静謐と端正な均衡に満ちた左右対称のフランス式庭園や、彫像のように寄り添って動かない男女。それらの唐突な切り換え。アルバムをめくるように、次々と重ねられるイメージ。いわばそれは静的な熱狂だ。時間は静止し、次の瞬間、それ自体の迷宮の内部を徘徊する。さらに、台詞と画面とがしばしば一致せずズレ、あるいは相反して、衝突・異化効果・不安や奇妙な揺らぎ感などを産み出す。
(文=石原郁子 アラン・レネ/静的迷宮を徘徊し時代の爛熟頽廃を華麗に表現)