入江泰吉・杉本苑子 『飛鳥路の寺』

 昭和の高度成長期、どこの家庭にも一冊はあったといっても過言ではない保育社の「カラーブックス」シリーズ(同社ホームページより)。ネットで調べてみるまで知らなかったが、同社は「1999年に和議を申請。その後出版社や文化人、書店などによる経営再建の支援により、既存の原色図鑑シリーズ、検索入門シリーズなどを主体に増刷出版が続けられる。2007年5月より株式会社メディカ出版の出資により、新生「保育社」としてスタート」したという。確かに、実家の本棚にはビニールのカバーが破れかけたカラーブックスの「花と緑」「文学・歴史散歩」「のりもの」シリーズが何冊かはあったことを思い出す。
 
 本書『奈良の寺シリーズ4 飛鳥路の寺』は、神保町の古書店で購入した同僚が貸してくれたもの。その後、改めて読み返したくなって、先週末、図書館から借りてきた。
 
 入江泰吉の作品は、朝日新聞社刊行の『昭和写真全仕事14』を持っているけれど、「カラーブックス」は何より判型から組版、編集まで、昭和の匂いが濃厚に漂っていて陶然とする。カラー写真などすっかり退色しているし、当時の印刷技術ではモノクロの味も正直言って深みを出し切れているとはいえないが(もとより廉価版でそこまで求めようもない)、それにしてもこんな風景がほんの40年ほど前には日本に存在したのだ、と思うと切なくなる。
 
 なお、「飛鳥(あすか)」の訓みについて、本書では大陸からの帰化人がつけた「安宿(あしゅく、飛ぶ鳥の安宿)」という地名を、日本人がなまって「あすか」と訓んだものという説を紹介しているが、恵美嘉樹は『図説 最新日本古代史』の中で、接頭語の「あ」+「そが(蘇我)」説を紹介している。本書の表紙は、安居院を背景に五輪塔乙巳の変により中大兄皇子に暗殺された入鹿の首塚)を写したものだが、まさに蘇我氏が創建した日本最古の都にふさわしい一枚といえるだろう。
 
 杉本苑子のエッセー(これも豪華か?)を除くと、グラビアページは96ページだが、甘橿丘より飛鳥の集落を見る巻頭の一枚から、二上山への飛鳥の落日まで、すべての写真が素晴らしい。
 
ひさかたの 天の香具山 この夕べ 霞たなびく 春立つらしも  柿本人麻呂