大江健三郎 『新しい人よ眼ざめよ』

装幀見返しは武満徹作曲「雨の木」の楽譜原稿。
カバー装画はブレイク装画「ジェルサレム」76による
 
障害を持つ長男との共生と、ブレイクの詩を読むことで喚起される思いをないあわせて
『個人的な体験』『ピンチランナー調書』から『雨の木(レイン・ツリー)』へ
 
現代日本文学の到達した、最も美しい「結晶」の一つ。
 
――いいえ、パパは死んでしまいました! 死んでしまいましたよ!
 
イーヨー(プーさんのロバ)
言葉を定義する  「世界」の構築
 
怒りの大気に冷たい嬰児が立ちあがって
――あーっ、死んでしまいました、あの人は死んでしまった!
ブレイクを介してあきらかにされた、僕の経験の意味
――大丈夫ですよ! 僕は死ぬから! 僕はすぐに死にますから、大丈夫ですよ!
 
魂が星のように降って、跗骨のところへ
鎖につながれたる魂をして
 
――パパ、よく眠れませんか? 僕がいなくなっても、眠れるかな? 元気をだして眠っていただきます!
 
「イーヨー」から「光さん」へ
息子よ、確かにわれわれはいまきみを、イーヨーという幼児の呼び名でなく、光と呼びはじめねばならぬ。そのような年齢にきみは達したのだ。きみ、光と、そしてすぐにもきみの弟、桜麻とが、ふたりの若者としてわれわれの前に立つことになるだろう。胸うちにブレイクの『ミルトン』序の、つねづね口誦する詩句が湧きおこってくるようだった。
 
Rouse up, O, Young Men of the New Age! set your foreheads against the ignorant Hirelings!
惧れるな、アルビオンよ、私が死ななければお前は生きることができない。/しかし私が死ねば、私が再生する時はお前とともにある。