フランツ・カフカ 『城』

深い雪に覆われ、霧と闇に包まれたある夜ふけ、測量士Kが城主ヴェストヴェスト伯爵の依頼で村にやってくる
「この村は城のものなのです。だからここに住んだり泊まろうという人は、城に住んだり泊まるのと同じことで、伯爵の許可なしにはできないのですよ。あなたは許可をお持ちじゃないでしょう。少なくとも提示なさいませんでしたね」
 
痩せた黒い服の二人連れ(Kの助手)
 
バルナバス(城と村の連絡役)が城の高官クラムの署名入り手紙を持参
 
村長「測量は不要であって、依頼した文書もない」
 
給仕女フリーダ(クラムの恋人。見ばえのしない、小柄な、ブロンドの髪。だが、並外れて優れたところのある眼差し)
 
バルナバス家: 姉オルガと妹アマーリア
(未完)
 
どの地点から仰ぎ見ても同じ隔たりを持つ「城」
果てしない堂々めぐり
 
 
 カフカといえばグレゴール・ザムザの『変身』譚かオーソン・ウェルズの映画でも有名な『審判』(村上春樹がドイツ語を訳せたら『訴訟』ってタイトルにするかな)が有名で、ちょっとコアな読者ならオドラデクの物語(『父の気がかり』)とか『掟の門前』(『審判』にも採録)を“マイ・フェイバリット”に挙げるだろうけど、物語として圧倒的に面白いのはやはりこの『城』ではないだろうか、と思う。
 学生時代に読んだ新潮文庫版は誰かに貸してあげたきり紛失してしまったので、手許にあるのは池内紀の「白水uブックス」版。とにかく、粗筋とエピソードだけで成立している書物で、しかもそうした細部をいくら重ね合わせたところで「大きな物語」は立ち上がらない、ひどくよそよそしいテキストの“束”が『城』なのだ。死後、必ず燃やすように遺言しながら、マックス・ブロートはこれら作品群を世に問い、20世紀の世界文学は震撼した。そのブロート流の読解を――実存や人間存在の問題と重ね合わせる読みを――徹底的に批判し、排除したのがドゥルーズガタリで、学生時代にかなりしびれた記憶がある。あまりにも面白い小説なので、かえって再読をためらってしまう、特別の一冊だ。