報復を企てるのではなく

村上春樹さん「ボストンへ」 テロめぐり米誌に寄稿 (www.asahi.com 2013年5月4日2時27分)
 
 ボストン爆破テロ事件について、作家の村上春樹さんが3日付の米ニューヨーカー誌(デジタル版)に寄稿した。ランナーの一人としてボストン・マラソンへの愛を語った上で、この傷を癒やすには、報復を企てるのではなく、誠実に静かに時を積み重ねる必要がある、と語りかけている。
 
 タイトルは「ボストンへ。ランナーを自称する一人の世界市民から」。村上さんは、過去30年で33回、世界中でフルマラソンを走ったなかで、「どれが最も好きかと聞かれた時は答えをためらわない。6回走ったボストン・マラソンだ」と表明し、その魅力を記している。
 
 ボストン郊外で3年間、暮らしたことも紹介し、このマラソンの魅力は他の走者やボランティアの応援とサポートだと強調。「爆破で多くの人が肉体的に傷ついたが、さらに多くの人が違ったかたちで傷ついたに違いない」と自身を含めた世界中のランナーが心の傷を受けたことを懸念する。
 
 事件による深い傷をどう癒やすか。文章は、それを問う。1995年の地下鉄サリン事件被害者にインタビューした自著「アンダーグラウンド」にも触れ、「時間の経過は、いくつかの痛みを遠ざけるが、新しい痛みもまた引き起こす」と精神的外傷がいかに人生を一変させるかを説く。
 
 傷を隠そうとしても、また報復を考えても決して救いにはならない、として、「この傷を記憶し、痛みから目をそらさずに誠実に静かに時を積み重ねる必要がある」「私は、毎日走り続けることを通し、傷つき、命を失った人たちを悼む」と表明。ボストン・マラソンが傷を癒やし、再び復活することを願う言葉で寄稿は締められている。
 
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 寄稿は日本語から英訳されており、記事中の引用は記者の翻訳。