加藤シゲアキ 『閃光スクランブル』

 悲劇的な前作(『ピンクとグレー』)よりも力強くストレートな作品。前作に引き続き、フェデリコ・フェリーニアキ・カウリスマキヘミングウェイなど著者の若者らしい嗜好の一端が伺い知れて興味深い。
 
 すべての登場人物やエピソードに「意味」を持たせる、計算し尽くした構成が著者・加藤シゲアキの特徴。作中、尾久田雄一のマネ・小林の偽装ツイッターの中でも、なぜユウアがスタジオで一人練習したことを知っていたのかなど、不自然な設定はあったし、その小林の妻とカメラマン坂木ができていたとか、そのあたりの「あざとさ」は否めないけれど、瑞々しい筆力で辛うじてリアリティーを担保することに成功している。
 
 東京プリンスパークホテル下での柊彼方との格闘や、秩父長瀞でのカーチェイスなどはそれなりに読み応えがあるし、ブレッソン植田正治の写真、ピチカート・ファイブの音楽を配したら素敵な映画になりそう。亜希子(アッキー)がクライマックスに向かって魅力的になっていくところも見逃せない。