村上春樹 『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』

 では、いったい灰田文紹と白根柚木とは何だったのか。なぜ灰田は失踪し、白根は絞殺されねばならなかったのか。緑川の示すメッセージとは何を意味していたのか――。
 
 ファンタジーと言ってしまえばそれまでだが、どこにも回収されずに取り残されたままの「伏線」があまりに多すぎる。
 むしろ、最後の数ページで、「この小説の中で起こったすべての厄災は、もう一人のつくるが自らもたらしたものだった」という、サイコホラー的な結末すら予感したものの、やはりすべては村上春樹だった…という一冊。