ネットが開く「世界最高の教育」

名門大の授業、無料配信 米で450万人超が受講 (www.asahi.com 2013年03月06日18時29分)
 
 親の経済力が子の学歴に大きく影響する現実を前に、教育に意味を見いだせない子どもが増える中、米国で「革命」とも言われる動きが進行中だ。一流大が授業を次々とオンラインで無料発信。意欲と能力さえあれば、生まれた環境に関係なく人材として見いだされる時代が始まった。
 
 「彼は天才だよ。15歳なのに私の授業で満点を取ったのだからね」。米マサチューセッツ工科大(MIT)とハーバード大が共同で昨春設立したオンライン教育機関「エデックス」のアナント・アガルワル学長は興奮していた。
 
 エデックスは両大学などの24授業をインターネットで無料配信。世界のどこにいても、ネットにつながればタダで世界最高の教育が受けられる仕組みだ。
 
 アガルワル学長の授業「電子回路」は15万人が受講。繰り返し出る課題を期日までに提出し、4カ月間の授業を最後まで受講したのは7千人。さらに最終スコアで満点を取ったのは全受講生の0・2%、340人。ここにモンゴルの15歳が含まれていた。「優秀な成績を修めた生徒には、我々の大学を受験するよう働きかける。秀才を発見し、受験を勧められるのだから大学には大きな利益だ」
 
 少年はウランバートルの高校生。理科好きの仲間20人と放課後に勉強してきたという。MITを受験し、まもなく結果発表だ。「新しい技術は不可能だった機会を人々に提供する。僕の夢も、人を幸せにする新技術を生み出すことです」
 
 世界に先駆けて授業の無料公開に踏み切ったMIT。当初は講義の資料や動画を一方通行で公開していたが、2012年、宿題や試験など受講生と双方向で授業を進める仕組みが誕生し、事態は大きく動いた。
 
 世界中の受講生の成績を回収できるようになり、研究開発にしのぎを削る大学にとって貴重な資源である人材獲得の有力な手段となることがわかってきた。米国を中心に世界の大学が次々参入、1年間で受講生は450万人を突破。日本の全大学生の2倍に迫る。
 
 一方、日本では23大学が3千科目の教材をオンラインで公開するが、一方通行の公開がほとんどで、動画もなかなか増えない。
 
 276科目を公開する京都大は臓器移植の動画が人気で、国内では先頭集団を走る。それでも公開率は数%。公開すれば間違いを指摘されたり、他大学の授業と比べられたりする。これを授業改善の機会ととらえる文化が根づかない。
 
 飯吉透教授(高等教育システム学)は「オンライン講座で世界の名門大の教授が出した修了証を集めれば、高い授業料を払って大学に行かなくても就職できる時代が来るだろう」と予見する。「教員の研究業績を重視し、教育力は二の次としてきた日本の大学には激震だ」