臓器再生・創薬から「がん・感染症治療」へ

iPS、がんやエイズ治療に応用も 免疫細胞「若返り」 (www.asahi.com 2013年1月4日07時09分)
 
 iPS細胞(人工多能性幹細胞)の技術が、がんや感染症の治療に使える可能性が出てきた。免疫細胞を若返らせる実験に日本の二つの研究チームが成功し、免疫療法の効率を高められることがわかったからだ。
 
 4日付米科学誌セル・ステムセルにそれぞれ論文を発表した両チームが注目したのは、T細胞と呼ばれる免疫細胞。がん化したり、ウイルスに感染したりした細胞が持つ目印(抗原)をアンテナ分子で認識し、これらを殺す働きがある。
 
 免疫療法では、がん細胞や感染細胞を認識するT細胞を体外で増やして患者に戻すが、もともと数が少なく、1〜2週間とされる寿命を終えつつあるものもあるため、効果は限定的だ。
 
 理化学研究所の河本宏チームリーダーらのチームは、皮膚がんの一種、悪性黒色腫の患者のT細胞に「山中因子」と呼ばれる遺伝子を入れて「初期化」し、iPS細胞を作った。
 
 さらに「分化」という操作でT細胞に戻したら、98%以上ががん細胞の抗原を認識でき、生まれたばかりの元気な状態になっていた。iPS細胞から何万倍ものT細胞を量産できるといい、数の少なさの問題も克服できる。
 
 一方、中内啓光・東京大教授らのチームはエイズウイルスに感染した細胞を殺すT細胞で同様の実験に成功。やはり「若返り」が確認された。中内さんは「これまでより強力な免疫療法につながる」と話す。
 
 「再生したT細胞が健康な細胞を傷つけず、がん細胞だけを攻撃するかを確かめるのが次のステップ」という河本さんは、他のがん抗原での作用の確認を計画中。臓器の再生や創薬で注目されるiPS細胞技術が、がんや感染症の治療に用いられれば、iPSの応用範囲は大きく広がることになる。