古墳期の至宝を纏う

宝冠、飾りが年代物 東大寺の観音像に古墳期?ガラス玉 (www.asahi.com 2012年10月28日13時40分)
 
 奈良時代(8世紀)の工芸の最高傑作といわれる、奈良・東大寺不空羂索観音立像(国宝、高さ3.62メートル)の宝冠(同、高さ88センチ)にちりばめられた青いガラス玉が、より時代をさかのぼる弥生〜古墳時代に輸入されたものである可能性が高いことが27日、東大寺であった講演会で明らかにされた。東大寺を開いた聖武天皇(701〜756)が天皇家に伝わる宝物を仏に捧げたのではないかとの見方も出ている。
 
 ガラスを分析したのは東京理科大の中井泉教授(分析化学)と日本ガラス工芸学会の井上暁子会長(ガラス工芸史)。古墳時代以前のガラスが遺跡の出土品以外に科学的に確認された例は、過去にないという。
 
 宝冠は、唐草文様を透かし彫りした銀製の本体に高さ24センチの化仏(けぶつ)がつき、翡翠琥珀、真珠、ガラスなど1万数千点の宝玉で飾られている。
 
 中井教授らは7月、蛍光X線装置でガラス玉20点の成分を分析。15点が鉛ケイ酸塩ガラスで、5点が鉛を含まないアルカリガラスだとわかった。井上会長は約1万1千点の実物や写真を観察し、鉛ケイ酸塩ガラスが60%、アルカリガラスが30%、ガラス以外のものが10%と判定した。
 
 鉛を含むガラス玉は同じ奈良時代正倉院宝物などと同様に、芯材に溶けたガラスを巻き付けて作られていた。一方、奈良時代にはほとんど見られないアルカリガラスは、管状のガラスを切って玉にする技法が弥生〜古墳時代のものと似ており、成分の違いから製作地や年代が異なると考えられる。ガラスの国産化は7世紀後半(飛鳥時代)以降で、それまでは大陸から輸入していたとされる。
 
 両氏は「古墳時代から大切に伝えられてきた宝飾品を冠に使ったのだろう。観音像を作った人の特別な思いが込められているのではないか」とみている。
 
 観音立像を本尊とする東大寺法華堂は寺内最古の建物(730年代前半)で、聖武天皇が建立。観音立像と宝冠も同じころの作とみられている。
 
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 《聖武天皇の事績に詳しい森本公誠・東大寺長老の話》 聖武天皇は「三宝の奴」(仏法のしもべ)と名乗るほど、仏教への帰依を深めた。その証しとして、代々の天皇に伝えられた宝だったガラスなどの宝飾品を冠に加えて、不空羂索観音に捧げたのではないか。