1/1000秒の後出し

じゃんけんロボ無敵の秘密 東大院開発、ネットで大人気 (www.asahi.com 2012年10月6日18時23分)
 
 じゃんけんで人間に全勝。そんな「じゃんけんロボット」の様子を、東京大学大学院情報理工学系研究科の石川正俊教授が動画サイト「ユーチューブ」で公開したら大人気。3カ月余りで330万を超すアクセスを集めている。
 
 石川教授は、1千分の1秒でカメラに映った物体を識別する高速画像処理を研究している。じゃんけんロボットは、相手の手の形を瞬時に把握し、1千分の1秒だけ後出しする。だから必ずロボットが勝つ。人間の目はその時間差を認識できないため、後出しされたこともわからない。
 
 その様子を6月にユーチューブで公開すると、海外メディアでも取り上げられ、国内外から337万件のアクセスがあった。動画はもともと、高速処理の性能をわかりやすく示すのが目的。「世界中から『すごい』と褒められているようでうれしい」と石川教授は話す。
 
 「論文や学会など内輪の評価に限らず、社会との接点を数多く持つことが研究者には大事」が持論だ。「科学技術は社会に利用されて新たな価値を生む」と、石川教授の研究室は2009年8月から動画の公開を始め、現在は39本を見られる。
 
 動画の公開が、企業との共同研究につながったケースもある。本をパラパラとめくるだけで全ページを画像化してデジタル保存する技術を紹介する動画を公開すると、大日本印刷の技術者から声がかかった。商品化は決まっていないが、年度内にはこの方法で1分間に200ページをデジタル保存できる新装置の実験を始める。同社の担当者は「ユーチューブでの技術公開は、論文よりスピーディーで効果的」と話す。
 
 石川研究室の博士課程3年、奥村光平さん(28)は、狙った物体が動いていても、常に画面の中央にとらえて撮影できるカメラを開発。この映像も12万件以上のアクセスを集めた。「多くの人に知ってもらうことで研究のモチベーションも上がる。予想外の意見も寄せられ、新たな発想を得られた」
 
 動画は研究室の専用サイト(http://www.youtube.com/IshikawaLab)で見られる。