本郷館をしのぶ

 梅雨入りの9日、銀座1丁目の一角にひっそりと佇む奥野ビルに、本郷館(文京区本郷)をしのぶ展覧会を見に行った。

 

雨中の奥野ビル
 

本郷館しのぶ展覧会 内部動画を初公開 (東京新聞 2012年6月2日)
 
 昨年八月に惜しまれつつ取り壊された三階建て高級木造下宿「本郷館」(文京区本郷)をしのぶ展覧会が、中央区銀座一の九の八、奥野ビル三〇六号室で開かれている。一つ部屋で鍋をつつく住人たち、共同の炊事場で白菜を洗う様子、手すりに布団を干す風景。明治、大正、昭和、平成と四つの時代を生き抜いた建物の魅力と人々の息づかいを、写真や動画で伝えている。 (井上圭子)
 
 取り壊し直前まで本郷館に住み、家主や区に保存を求める署名活動を行ったメンバーで建築士佐藤隆行さん(39)が企画した。
 
 「本郷館を大好きだった方々、署名してくれた方々、中を見たくてもかなわなかった方々に素晴らしさを伝えたい」。その思いから、佐藤さんが居住中に撮りためた建物内部や生活風景のスナップ写真約百五十点や写真パネル約二十五点、建物模型一点などを展示。建物内部の動画も流している。防犯上の理由から内部の公開が許されていなかったので、これが初公開という。
 
 本郷館は、一九〇五(明治三十八)年、岐阜県の酒造業・高橋家が濃尾地震で被災し、新天地を求めて文京区本郷に建てた賄い付き高級下宿。木造三階建て、延べ面積千四百四十平方メートル。中庭を囲むように七十余室を配置、作家の林芙美子島田清次郎も暮らした。大正時代には東京女子高等師範学校(現お茶の水女子大)の寄宿舎だった。関東大震災第二次世界大戦、昨年の東日本大震災もくぐり抜けたが、家主の意向で取り壊された。築百六年だった。
 
 奥野ビルは昭和初期、「銀座アパートメント」として建てられた築約八十年の鉄筋コンクリートの建物。会場の三〇六号室はビルの中で唯一、一度も改修されずに使われてきた。佐藤さんは「本郷館奥野ビルも、時代の節目に新しい未来をイメージして建てられた。見に来ていただき、何かを感じてほしい」と呼びかける。
 
 十日まで。正午〜午後七時(四日は同五時半まで)。九日午後三時、佐藤さんと映像作家の山崎友蔵さん、編集者の小松栄美さんら元住人三人のトークイベントがある。要予約、電子メール=room306project@gmail.com=で。