ジャック・ル・ゴフ 『子どもたちに語るヨーロッパ史』

 どうか忘れないでください、記憶なしではよきことは起こりえないことを。歴史は公正な記憶をさしだすためにあり、そうした記憶こそが過去を通してみなさんの現在と未来を照らし出すのだということを。 (p.147-148)
 
 本書はアナール派第三世代のリーダーと目される現代フランスの中世史家、ジャック・ル・ゴフが、「子どもたち」のためにどのような歴史の表現が可能かを模索したテキストであり、ヨーロッパ史の簡便なダイジェストではない。教科書では味わえない「歴史を学ぶ楽しさ」がそこかしこに滲み出ている。
 
 なお、読み物として単純に面白いのは、併録の「子どもたちに語る中世」だろう。日本史もそうだが、中世の“異形”(本書の著者によれば「偉大な創造の時代」)はなぜこうも現代人を惹きつけてやまないのか。