作家の北杜夫さん死去

作家の北杜夫さん死去 「どくとるマンボウ」シリーズ (www.asahi.com 2011年10月26日10時39分)
 
 とぼけたユーモアに文明批評を織り込んだエッセー「どくとるマンボウ」シリーズで人気を博し、「楡家の人びと」などの小説で知られる作家の北杜夫(きた・もりお、本名斎藤宗吉)さんが、24日午前6時2分、腸閉塞のため東京都内の病院で死去した。84歳だった。通夜、葬儀は親族のみで行う。喪主は妻喜美子さん。故人の遺志でお別れ会などは開かない。
 
 1927年、歌人斎藤茂吉の次男として東京に生まれた。母は、日本人女性で初めて南極を旅した斎藤輝子。精神科医でエッセイストの故・斎藤茂太さんは兄。娘の由香さんはエッセイスト。東北大医学部卒。慶応大病院助手を経て精神科医を務める一方、同人誌「文芸首都」を拠点に小説を発表した。
 
 60年、水産庁調査船の船医として南洋から欧州をめぐった体験に基づく「どくとるマンボウ航海記」がベストセラーになる。同年、ナチの精神障害者虐殺にささやかな反抗を試みる医師の姿を描いた「夜と霧の隅で」で芥川賞を受賞した。
 64年、脳病院を築いた祖父らをモデルに一家3代の興亡を活写した長編小説「楡家の人びと」(毎日出版文化賞)を刊行、三島由紀夫に「戦後に書かれたもっとも重要な小説の一つ」と絶賛される。他に「酔いどれ船」「輝ける碧き空の下で」(第2部で日本文学大賞)などで海を越えて生きる人間の原質を描き出した。短編にも秀作が多い。
 
 純文学と軽妙なエッセーを書き分ける執筆スタイルを遠藤周作らに先駆けて確立、「どくとるマンボウ青春記」は68年のベストセラーとなった。ユーモア小説では「船乗りクプクプの冒険」「さびしい王様」などが若い層に愛読された。
 
 96年に芸術院会員。父茂吉の評伝4部作が98年に完結し、大佛次郎賞を受賞した。