have the operation


 6時半にベッドの明かりが点灯し、起床。何とか2時間は睡眠が確保できた。45分頃、看護師さんがやって来て浣腸。5分は我慢してくださいねと言われるが、すぐにトイレに駆け込んでしまう。9時過ぎに検温と血圧の測定があり、左腕に点滴を挿入される。
 
 12時半頃、妻がやってくる。13時前、看護師さんに引率され、点滴を引きずりながら3階の手術室へ歩いていく(この辺り、予備麻酔のかかった状態で手術台に載せられ移動するものと思っていたので、やや意外な感じ)。手術控室の前で妻と別れ、中に入ると、担当の麻酔医を初め、研修医と思しき数人の若い医師、看護師らがスタンバイしている。みんな若いので、何となく華やいだ、楽しげな雰囲気が漂っている。こちらも少し気が楽になったが、これがもし彼らの演出だったとしたら大したものである。
 
 ここで点滴台を手術用のものに変え、念入りに名前を確認(入院時に腕に装着したIDプレートなどでもチェック)すると、さらに歩いて目的の手術室に移動し、そこでようやく自力で手術台の上に載る。
 
 髪の毛を覆うシャンプーハットみたいなものを被り、酸素マスクを装着。ゆっくり深呼吸をする。「眠くなります。ちょっと変な匂いがしますよ」と言われ、それに続いて、耳元で「****さん、聞こえますか? 起きてください」と声をかけられる。
 
 「手術は終わりましたよ。分かりますか?
 
 全身麻酔による手術とはまさにこのようなもので、「眠ったかな」という意識よりも先に、すべてが終わっているのである。麻酔医の声に頷いてから、喉に挿管していたチューブを外すまでの0.5秒ほど呼吸ができず、ひやりとさせられるが、すぐに酸素マスクで自力呼吸が始まる。看護師に時間を訊ねると16時前ということで、腹部のドレーンもないことから、手術は相当順調だったことが分かる。手術自体、1時間前には終わっているはずなので、執刀医の姿は遂に見ることがない。
 
 病室に戻り、18時まで酸素ボンベで吸入を行う。ということで、胆嚢摘出手術はこれですべて終わりなのだが、患者が大変なのは、じつはここからなのである。
 ぼくの場合、尿道カテーテルによる違和感が耐え難く、様子を見に来た若い医師に声をかけ、何とかこれを外してもらえないか頼む。
 「それでは、ご自身でおしっこしてもらうことになりますよ」
 「たぶん大丈夫だと思います。でも、ぼくのようなケースって珍しいんですか?」
 「いえ、若い人の中にはやっぱり違和感がひどいので、抜いてくださいって言う患者さんも多いですね」
 
 しばらくして看護師さんがやって来て、カテーテルを外し尿瓶をセット。
 「もし自力で排尿ができない場合は、また挿管させてもらうことになりますから」
 「翌朝までおしっこが出ないと、どうなるんですか」
 「お腹がぱんぱんになって、痛くなります」
 
 しかし、ベッドに仰向けになったままの態勢で下腹部に力を入れ排尿するなど、健康な状態でも困難ではないか? 「排尿時だけでも、ベッドに腰掛けさせてやらせてもらえませんか」と聞いたものの、まだ学生らしい看護師さんは「ダメ」という。全身麻酔を受けた当日は絶対に起き上がってはいけない、というのがX病院のガイドラインなのだろう。だが、手術前にもらったガイドブックによれば、「痛みが軽く動けるようであれば、ご自分でトイレに行っていただいても結構です。その場合尿道カテーテルは抜去可能です」と書いてあったのだが。
 
 ともあれ18時を過ぎて、酸素ボンベから解放される。次にやってきた看護師さんも年齢的にはまだ若いものの、それなりにキャリアは積んできた感じの人で、ベッドサイドに腰をかけた状態での排尿を許可してもらう。
 
 その後、様子を見に来た執刀医のS医師にこの経緯を告げると、「同じ附属でも、本院の方だと手術当日でも、歩ける人には歩いてもらうんだけどねえ」とのこと。なお、肝心の腹部については、麻酔が効いていることもあって大きな痛みはない。とにかく、違和感の9割以上は下腹部に集中している感じである。
 
 21時、点滴のチェックに来た看護師さんが「点滴に睡眠剤を入れましょうか?」と声をかけてくれたものの、なぜか遠慮してしまう。しかし、その後間断のない尿意に悩まされ、ベッドサイドに立って尿瓶に用を足すごとに錐で尿道を突き刺されるかのような激痛、そして残尿感を経て再び排尿、と文字通り朝まで眠ることができなかった。ただし、手術自体はすでに終わっているので、翌日でも寝れるときに眠ればいいやと、気分的にはずいぶん楽な感じではあった。