enter the hospital

 胆石症の手術を受けるため、朝9時、タクシーで(着替えなどの荷物が多いため)X医大病院へ。入院受付を済ませ、4**病室(四人部屋)に入る。しばらくして看護師さんがやって来て体温、血圧を測り、採血を行う。その後、薬剤師、麻酔医も来訪。
 昼食から病院食スタート。メニューは七分搗き米、ぶりの照り焼き、豆腐の味噌汁、きんぴらごぼう、ほうれん草のおひたし。
 
 13時、カンファレンスルームにて執刀医のS医師から病状と手術の大まかな説明を受ける。術式は腹腔鏡下胆嚢摘出術というもので、まずはお臍の下の皮膚を1〜2cm程度切開し、トロッカーという筒状の医療器具を挿入して腹腔に二酸化炭素を注入。腹部を膨らませてからカメラ(腹腔鏡)を挿入するとのこと。
 さらにみぞおち、右脇腹をそれぞれ切開してトロッカーを挿入。把持鉗子や電気メス、ハサミなどを挿入して胆嚢を切除する。腹部の状態によっては、腹部に溜まる浸出液を吸い出すため、ドレーンという細い管を右脇腹から垂らすこともあるそうだが、CTなどの情報を見る限り大丈夫だろうという話である。
 
 16時過ぎ、手術に立ち会う助手の医師らが顔を見せにやって来る。17時半頃、若い医師による診察(問診、触診)。
 18時、夕食はチキンカレーに大根のサラダ、バナナ、漬け物、ヨーグルト。それからバレンタインデーということで手作りのココアクッキーが付く。
 
 19時半、入浴。タイル張りの、いささか古びた、だだっ広い浴室で、冬の寒い季節には何ともいえずもの悲しい。浴槽に湯を張り、身体を洗う。21時、消灯の時間に合わせて下剤(水に溶かすラキソベロン内用液とプルゼニド錠)を服用し床につく。これ以降、手術日の翌日いっぱいまでは絶飲食(NPO)である。
 
 ところでこの部屋には、同日に入院した青年と、胃腸の手術が終わったばかりの老人が入院していたのだが、老人の腸の通じが芳しくないらしく、ガスが横隔膜を刺激してしゃっくりが止まらない。最初のうちは気にも止めず、イヤホンでFMラジオを聴きながら眠気が訪れるのを待っていたが、老人の痙攣は治まる気配もなく、次第に悲鳴に似た嗚咽に変わっていく。1時を大きく回った辺りで焦りが出てきて、ナースステーションに出向き、睡眠剤を出してもらえないか聞くが、この時間では処方できないとのこと。
 
 「明日、手術を受けるんだけれど、眠れないんです」
 「それは、頑張って眠っていただくしかありませんね」
 
 看護師さんにとって見れば、何とも厄介な患者というところだろうが、ぼくとしても生まれて初めての「全身麻酔」ということで緊張しているのだ。老人には気の毒だが、今夜だけは静かに眠らせてもらいたい。その後2時間くらい悶々と過ごし、4時前になって再びナースステーションに出向く。
 
 「すみません…。同室の患者さんのしゃっくりがひどくて、どうしても眠れないんですが」
 
 そこで、先ほどとは違う看護師さん2人が「仕方ないわね」と顔を見合わせ、隣室の4**(同じ間取りの四人部屋で、二人分の空きがあった)に移動することになった。この場合の移動とは、ベッドや備え付けの移動棚ごとの交換となり、けっこうな作業となる。こちらとしても、ほかの患者さんの迷惑になりそうで恐縮しきりなのだが、慣れた作業で7、8分後には新しい病室に移ることができた。
 
 これはなかなかの教訓である。寝付きの悪い人は早めに申し出て、睡眠剤を処方してもらうことが第一。それから、多少出費は覚悟しても、手術前とその当日、翌日くらいまでは個室を用意してもらえないか、医師と相談してみるべきだろう。それが無理なら、イヤーウィスパーのような耳栓を予め用意しておくべきである。病院はホテルや旅館ではなく、苦しみに呻き悶える患者たちが集まる場所なのだから。