高天彦神社

 奈良盆地東部に流れる「山辺の道」に対し、金剛山葛城山の麓を南北に貫く「葛城古道」(全長約15km)は、いにしえの奈良の自然を今日に伝える歴史的な散策路である。付近一帯は「神話のふるさと」とも言われ、『古事記』や『日本書紀』に伝わる高天原の伝承地が広がっている。
 
 近鉄御所駅からタクシーで金剛山に向かい、舗装された坂道を登っていくと、不意に広々と開けた台地に出る。ここが日本神話の舞台となった「高天原」の実在の地、御所市高天だ。
 
 駐車場から歩くとすぐに鳥居に迎えられ、こぢんまりとした空間に、不意にそこだけが時の止まったかのような、おそろしく神さびた本殿を目にすることができる。ここが高天彦神社である。
   
 
 
 ご神体は背景に聳える神奈備・白雲峰で、葛城氏の最高神高皇産霊神が祭神として祀られている。また、神社の前には鶯宿梅がある。これは昔、高天寺の小僧が若死したので、その師が嘆いていたら梅の木に鶯がきて、「初春のあした毎には来れども、あはでぞかへるもとのすみかに」と鳴いたことから名付けられたという。

 
 
 写真左は土蜘蛛(ここでは葛城氏に恭順しなかった豪族を指す)を埋めた跡とされる社殿脇の「蜘蛛塚」。このほか、鶯宿梅脇の細い道を辿っていった小高い山の先に「蜘蛛窟」と呼ばれる土蜘蛛の史跡がある(写真右)。
   
 
 
 写真下は願い事を一言だけ聞いてくれる「一言さん」として親しまれている一言主神社。『古事記』には、雄略天皇にその名を問われ、「吾は悪事も一言、善事も一言、言離の神、葛城の一言主の大神ぞ」と答えたとある(山川出版社奈良県の歴史散歩(下)奈良南部』より)。