戦争に協力した文学者たち――たとえば久米正雄、徳富蘇峰

文学者の戦争協力組織「報国会」設立に国資金 戦時中 (www.asahi.com 2010年8月15日3時32分)
 
 戦時中、文学者たちを戦争に協力させるために作られた日本文学報国会が、1942年の設立時に、国の「情報局」から資金援助を受けていたことをうかがわせる文書が見つかった。多くの文学者が同会を通じて戦争に協力したことは知られているが、会の資金状況を伝える資料は少ない。戦時下の文学者と政府の関係の一端を示す文書として注目される。
 
 文書は、小林修・実践女子短大教授(日本近代文学)が東京都内の古書店を通じて入手した。
 「情報局原稿用紙」と印刷されたB5判の用紙に、鉛筆で「領収書 一 金貮万圓也……日本文学報国会設立ニ際し御下附相成正ニ領収候也」などと手書きされている。受取人(発行者)は「社団法人日本文学報国会 設立発起人代表 久米正雄」、あて先は「情報局総裁 谷正之殿」。日付は「昭和十七年(42年)五月二十六日」で、同会設立総会の日と同じだった。
 総力戦に向けて情報の一元化を目指して設置された情報局が、会の設立に2万円を支給したと読み取れる。小林教授は「当時、会の事務局長の月給が約500円だったというから、2万円は高額だ」。
 
 久米(1891〜1952)は、「破船」などの作品を残した作家で、同会では常務理事、事務局長に就くなど主導的立場にあった。
 同会は、国民の戦意を高めるための講演活動や出版などに取り組んだ。会長は評論家の徳富蘇峰で、会員は3千人以上いたと言われる。
 
 小林教授によると、同会の42年度の収入が35万円だったことなど予算の規模は判明しているが、原資や収支の細目ははっきりしていない。今回の文書について、小林教授は「情報局が同会に領収書の書き方を指示した下書きのようなものではないか。情報局の指導で会ができたことは知られていたが、設立時に資金まで出していたとは驚いた」と話す。