Richter / R.Schumann's Fantasy in C
2009年は太宰治をはじめ中島敦、大岡昇平、埴谷雄高、松本清張、そしてシモーヌ・ヴェイユの「生誕100年」が話題を集めたが、2010年の今年は黒澤明、そして日本浪曼派の文藝評論家・保田與重郎の生誕100年の年に当たる。
保田は戦線拡大を扇動した文学者として戦争責任が問われ、昭和23年に公職追放された(その後復権)。今日では亀井勝一郎らとともに、太宰との交友などを通じて辛うじて知られる「忘れられた文学者」の観があるが、その著『日本の橋』は昭和初期を代表する評論と、再評価の動きもある。
海外では、サルトルの『聖ジュネ』(サルトルは38年刊行の『嘔吐』冒頭において反ユダヤ主義の呪われた作家L=F・セリーヌの『教会』の一節を引用したことでも記憶されるわけだが)で知られる「泥棒作家」ジャン・ジュネの生誕100年に当たっている。
このほか、ドストエフスキーと並び称される帝政ロシアが生んだ世界的文学者レフ・トルストイの没後100年、そして2人の偉大なる女性、マザー・テレサの生誕100年およびフローレンス・ナイチンゲールの没後100年の年としても喧伝されよう。
一方、音楽家では初期ロマン派の巨星、フレデリック・ショパンとロベルト・シューマンの生誕200年が祝われるだろう。
ショパンに比して、シューマンの音楽は何より「反時代的」であり、底知れぬ「狂気」が秘められていると評されることが多い。ニーチェと同じく、青年期に罹患した梅毒により晩年精神障害に罹り、ライン川に投身自殺を図ったこと、あるいは妻クララとブラームスをめぐる三角関係の疑惑(このあたりの事情も、ニーチェと妹エリザベート、ルー=ザロメとの関係を想起しないでもない)、さらには死の床でのクララへの遺言「Ich weis」(私は知っている)などの暗澹たるエピソードが、現代の聴衆に「そう思わせて」いるのかもしれないし、シューマンを何より愛したロラン・バルトのディスクール(言説)の影響が影を落としているのかもしれない。本コラムの映像はスヴャトスラフ・リヒテル演奏による「幻想曲ハ長調作品17」。
ちなみに、You Tubeではホロヴィッツによる「壮絶な」トロイメライ(モスクワコンサート。大人になった人のための「子供の情景」)を視聴することもできる。
http://www.youtube.com/watch?v=qq7ncjhSqtk
- 作者: 保田與重郎,川村二郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1999/01/08
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