マーティン・スコセッシ 『タクシー・ドライバー』(1976)

 「キネマ旬報」が11月20日に「映画史上のベスト10」を発表した。日本映画の1位は小津安二郎東京物語」で、以下(2)「七人の侍」(3)「浮雲」(4)「幕末太陽伝」(5)「仁義なき戦い」(6)「二十四の瞳」(7)「羅生門」「丹下左膳余話 百万両の壺」「太陽を盗んだ男」(10)「家族ゲーム」「野良犬」「台風クラブ」と続く。
 外国映画は1位がフランシス・フォード・コッポラゴッドファーザー」で、「タクシー・ドライバー」「ウエスト・サイド物語」が2位、以下(4)「第三の男」(5)「勝手にしやがれ」「ワイルドバンチ」(7)「2001年宇宙の旅」(8)「ローマの休日」「ブレードランナー」(10)「駅馬車」「天井桟敷の人々」「道」「めまい」「アラビアのロレンス」「暗殺の森」「地獄の黙示録」「エル・スール」「グラン・トリノ」が並んだ。
 
 外国映画ベスト3に選ばれた「ゴッドファーザー」「タクシー・ドライバー」「ウエスト・サイド物語」にどのような芸術的傾向を見出しうるのかはよく分からない。この種のランキングはそれ自体、完結したものとして楽しめばよいのだろう。学生時代、こうした映画を観ようと思ったら「ぴあ」でATGや名画座を熱心にチェックしなければならなかったが、現代ではその気になれば、近所のレンタルショップで「市民ケーン」でも「イントレランス」(D・W・グリフィス)でも「ノスタルジア」(タルコフスキー)でも借りて楽しむことができる。
 
 そうした中で、『タクシー・ドライバー』は80年代初頭の名画座でしばしば上映された一本だ。モヒカン族の戦士に扮装した鏡面の前のデ=ニーロ、麻薬とセックス、大統領選挙…。深い闇に包まれたタクシー・ドライバーと、アイロニカルなラストシーン。「俺たちに明日はない」に始まる、ハリウッド・ルネッサンス期の掉尾を飾る一作ではあるが、この映画の持つ徹底的な頽廃の空気を、茶番としてではなく21世紀に再現させることは、もはや不可能だろう。