レヴィ=ストロース追悼

『レビストロース氏 何者だったか――』 (2009年11月7日付 朝日新聞 文化欄)
 
 先生の言葉で私の心にしみているのは、「世界は人間なしに始まったし、人間なしに終わるだろう」という、『悲しき熱帯』の一節だ。
 人間のおごりを静かに戒める、これほど簡潔で決然とした言葉があるだろうか。先生の思想は、個人の生き方におけるつつましさと連続する、人類についての壮大なペシミズムに貫かれている。 (川田順造 抜粋)
 
 むしろ、まだきちんと読まれていまい思想家だとみる中沢新一多摩美大芸術人類学研究所長は、ゲーテに連なる「賢者」の系列だと言う。人間の全体性をふまえたヒューマニズムでありながら、人間を中心にはおかない、ブッダにも似た「遠いまなざし」。(略)
 喪失に対する「倫理」を強調するのは、今福龍太・東京外語大教授(文化人類学)。レビストロースほど、植民者としての負い目を先住民に抱き続けた人類学者はいないとみる。『悲しき熱帯』は、その負い目がエネルギーになり、近代が作った文化の単一化にインディオの側から異議申し立てを試みた。