悲惨な歴史を学ぶ場所で

アウシュビッツ 劣化との闘い  博物館 修復進む (2009年4月23日付 朝日新聞 国際面)
 
 第2次世界大戦中、ナチス・ドイツによるユダヤ人虐殺などの舞台となったポーランド南部のアウシュビッツ強制収容所。その歴史を伝える国立アウシュビッツ博物館が「時」と闘っている。開館60年余。展示品や建物は劣化が進み、入館者は戦争を知らない世代が増える。
 
 「この模様が見えますか」
 博物館の修復課長ラファウ・ピューロさん(34)が灰色がかった壁を指さした。所々はがれたペンキの下から植物の葉の模様がのぞく。かつて収容者が生活し、現在は閉鎖中の建物。収容者が壁に描いた模様だ。ウサギなどの動物の絵も見つかった。収容所時代や博物館になってからの補修で塗り込められていた。
 「絵の構図や色彩に優れた壁を復元することで、その中で行われた残虐な行為がより一層対比的になる」とピューロさんは語る。
 
アウシュビッツ博物館】 ナチス・ドイツが第2次大戦中、占領したポーランドの南部オシフィエンチム(当時は独名アウシュビッツに改称)郊外に設けた大規模な強制収容所跡に1947年、ポーランド政府が開設した国立博物館。200ヘクタールの敷地に150以上の建物が現存、ナチスに破壊されるなどした廃墟約300棟も残る。ガス室で虐殺されるなどした犠牲者は150万人に上るとされる。収容者らが残した8万足を超える靴、3800個のカバン、1万点以上の食器類、めがね、衣服や、刈られた髪の毛などが収蔵、展示されている。収容所跡は79年にユネスコの「負の世界遺産」に登録された。