反物質――宇宙の年齢を超えて

 早野龍五 (57、東京大学理学部教授) (2009年4月13日付 朝日新聞 夕刊 ニッポン人脈記「素粒子の狩人6」)
 
 「反物質」とは、世の中にるふつうの物質とは正反対の電気符号をもつが、それ以外は全く同じ性質をもつ物質である。その物質と反物質接触すると、原爆並みの大爆発が……
 5月15日に公開されるトム・ハンクス主演の映画「天使と悪魔」。スイスにある欧州合同原子核研究機関(CERN、セルン)で作られた反物質4分の1グラムが盗まれ、バチカンのどこかに仕掛けられた。反物質は磁力で空間に浮いているが、24時間たてば物質と接触し、大爆発を起こす。さあバチカンの運命は?
 
 「爆弾を作るのは無理。科学者はこっそり危険な研究なんかしませんしねえ」
 早野龍五はCERN反物質を作っている当人である。95年にドイツなどのグループが反物質作製に成功したのに刺激を受け、02年、ほぼ1日かけて5万個以上の水素原子の反物質、すなわち反水素原子を作るのに成功した。その後も反水素原子をつくっては性質を調べている。もし、水素原子と電気以外で違う性質が見つかったら、ノーベル賞ものだ。
 ところが、早野やCERNの研究者のもとに、「危険じゃないのか」といった問い合わせが増えてきたそうだ。
 
 物質と反物質がふれ合うと、光のエネルギーをだすのは事実である。だから、反物質がたくさん集まれば、爆弾になる可能性があるのでは?
 「現在の技術で、映画にでてくる4分の1グラムの反水素原子を作ろうとしたら、150億年かかります。宇宙の年齢を超えます」