四方田犬彦 『濃縮四方田』

 四方田犬彦の「100冊上梓記念」アンソロジー。発行は2009年2月10日となっているが、3月にはもう増刷されていたので、結構売れているのかもしれない。500ページ超のボリュームなので、アンソロジーとしては1冊当たりおよそ5ページの配分ということになる。ぼく自身、特に四方田の熱心な読者というわけでもないし、正直言ってそんなに本を出していたとは知らなかった。というか、実際に書店で目にして(あるいは購入して・実際に読んでみて)記憶に残っている本といえば、『貴種と転生』『月島物語』『読むことのアニマ』『白土三平論』『航海の前の読書』『見ることの塩』『月島物語、ふたたび』『先生とわたし』『四方田犬彦の引っ越し人生』、それから本書編集時に刊行準備されていたという『日本の書物への感謝』くらいかもしれない。
 
 しかし、実際にこの本を買う気になったのは、第一冊目に挙げられていた『リュミエールの閾』があまりにも懐かしかったから。80年代前半当時、新書版よりも一回り大きなサイズで、表紙にラファエロあたりの絵画をカラーで配した哲学的エッセイのシリーズ「エピステーメー叢書」が朝日出版社から刊行されていた。ラインナップは、叢書名からも推測されるとおり、フーコーやバルト、ドゥルーズデリダル・クレジオビュトールなどまさに“ニューアカ”時代を象徴する内容で(ビュトールなどこのシリーズで初めて作者を知って、中公文庫『時間割』を購入し、ヌーヴォー・ロマンを読み始めた気がする)、日本人の著者では、矢野健太郎柳瀬尚紀竹内均廣松渉らに混じって(この組み合わせもよく分からないけれど)四方田のこの1冊が刊行されていたのだ(『濃縮…』で本書を「朝日新聞社 1980年」と記しているのは校正ミス)。
 
 「映像分析と神話批判、ミニチュアとノスタルジア、南方憧憬と死者の回帰、崇高とグロテスク…」(帯文より)。それにしても、自作年譜はともかく、四方田もそろそろいい歳をしているのだから、件のような品のない「おわりに」など書くのは止した方がよいのではないか。