川上未映子 『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』

 朝日新聞の3月14日付文化欄に、第14回中原中也賞を受賞した川上未映子の第1詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』を紹介する記事が掲載されていた。選評では、「女性の性的な身体やその部位のもつ痛みや快楽の感覚が……常に観念によって媒介されているところに、詩の新しさが認められた」と評され、川上は「先端とは、女性器の先端も指すが、もっと広義に他者と触れ合う淵、時間で言えば今、のことです。誰も先端からは逃れられない。どの詩にも、先端の恐怖や違和感が出てきます」と語ったという。
 
 「女性の身体感覚をリズミカルにつづった」「性的な身体やその部位のもつ痛みや快楽の感覚を観念によって」媒介するテクストは、時代の隘路に回帰的に出現する(過敏な「先端恐怖」をうたった詩のごときものも、また)。正面から撮影されたバストアップの写真、視線を避けながらどこか笑みを湛えた肖像を見た瞬間、高校時代に義理で所属していた文芸部の女の子たちがこんな表情を見せながら、「1.5ccの精液が」どうしたこうした、というような詩のごときものを書き散らかしていたことを思い出した。
 
 詩はその「意味」を表出した瞬間、すべてが陳腐化する。『さすわ さされるわ そらええわ』という語呂遊びがその「意味」を不意に覆い隠すとき、テクストは底知れない速度と強靱さとをもって、読む者の内面を圧倒する。