バチカン80周年 祝賀色吹き飛ぶ法王の「失態」

渦中のローマ法王  問題司教の破門解除 非難続出 (2009年2月14日 朝日新聞 国際面)
 
 世界11億人のカトリック信者の頂点に立つローマ法王ベネディクト16世の足元が揺れている。ナチス・ドイツによるユダヤ人虐殺を疑問視する発言をした超保守派司教(英国人ウィリアムソン司教、昨年11月のテレビインタビューで「ナチスガス室で殺された者はいない」とホロコーストを否定)の破門を解除したことが「最大の失態」と批判され、法王自身の不人気(「考え方が厳格で、見た目が古臭い。信者に関心の高い就職難や貧困、子供の将来への不安といった現実の問題を見ていない」イタリア・エスプレッソ誌)も相まって、バチカンを訪れる信者の数が大きく減っている(ローマ法王庁によると、法王が姿を見せる日曜日恒例の「正午の祈り」や、水曜日の一般謁見に訪れる信者の数は法王就任翌年の06年の年間320万人から08年は220万人と100万人も減った)。
 
目立つ失態
 バチカン側は4日に「法王はホロコーストを否定しない立場を明確に表明している」と声明を出したのに続き、8日に法王がメルケル独首相と電話会談。12日には法王が米国のユダヤ人団体の代表と会見し、キリスト教ユダヤ教の宗教対話の継続とともに、5月に両宗教の聖地エルサレムと聖誕教会のあるパレスチナ自治区ベツレヘムを訪問することなどを確認し、火消しに努めた。
 だが、独ではホロコーストの否定や矮小化は刑法に違反する行為にあたるため、司教のインタビューが収録された独南部レーゲンスブルクの検察当局が捜査を開始。司教の発言を放映したスウェーデンの放送局関係者から事情を聴くなど問題はくすぶる。
 法王はこれまでも、イスラム教の聖戦(ジハード)に否定的な発言をしてイスラム諸国の反発を受けるなど、失態が目立つ。今回の問題では「政治的センスのない発言や鈍い対応など、最大の失態」(バチカン関係者)との声も上がっている。
 
バチカンユダヤ教
 第2次世界大戦中のローマ法王ピオ12世(在位1939〜58年)は、ホロコーストを公の場で非難しなかったとして戦後非難された。また、聖地エルサレムの帰属問題などからバチカンは48年建国のイスラエルと93年まで国交を結ばなかった。ヨハネ・パウロ2世(在位78〜05年)はキリスト受難の責任をめぐって教会が反ユダヤ主義を助長してきたとして謝罪し、00年エルサレムを訪問。ベネディクト16世も06年にアウシュビッツを訪問したが、ピオ12世を聖人に列する動きなどをめぐり、今なおバチカンを非難するユダヤ教関係者が少なくない。