「新宿の目」 スカラ座 邪宗門


 新宿西口広場、スバルビル地下1階の壁面に嵌め込まれた宮下芳子作の奇怪なオブジェ「新宿の目」を右手に見やりながら、都庁に向かう地下通路をしばらく進んでいくと、モード学園コクーンタワー地下の書店「ブックファースト」にたどり着く。そこは店内が複数の島宇宙から構成され、迷路のように不可解なパーティションに右往左往しながら、目的外れな一冊を購入するのが面白いといえば面白いのだが、帰途、駅に戻る途中、疲れた足取りに目に止まるのが喫茶店「新宿スカラ座」だ。
 
 同店の開店は昭和29年というから、新宿でも老舗の部類に入るが、2002年末にいったん閉店。場所を変えて翌03年、小田急エースのこの地に再開した。調度品のそこここに時代を感じさせる雰囲気は漂っているが、交通新聞社の『東京おさぼり喫茶 癒しの喫茶空間80選』には、移転前のレトロな店内空間の写真がカラーで紹介されている。
 
 この頃は滅多な機会でもないと喫茶店に入ることもなくなってしまったが、インパクトの点では荻窪の『邪宗門』に止めを刺すだろう。Hさんの思いつきで、8か月になるみおちゃんと3人で入ったが、狭くて急な階段を上った2階の店内に響き渡る、時を刻む振り子時計の硬質な機械音、カタストロフィーを想起させるクラシックの調べ、行先のない汽車の客室で珈琲を飲んでいるような、不思議な感覚に襲われる。