多極化世界を拒む隘路 ――パレスチナ 解決の糸口は

イスラエルが「停戦」宣言 ハマスも条件つきで (www.asahi.com 2009年1月18日23時21分 一部抜粋)
 
 イスラエルオルメルト暫定首相は17日夜、イスラム過激派ハマスが支配するパレスチナ自治区ガザへの攻撃を18日午前2時(日本時間18日午前9時)から停止すると発表し、実行した。ハマスも18日午後、即時停戦入りを発表。ガザからの1週間以内のイスラエル軍撤退と、すべての境界検問所の開放をイスラエル側に求めている。停戦に向けた国際的な圧力が高まるなか、その実現に向けた重大な局面に入っており、イスラエルハマス双方の駆け引きが続きそうだ。
 17日深夜に記者会見したオルメルト氏は、攻撃による武器密輸トンネル破壊やハマス幹部の殺害で、ハマスの統治力や軍事力に大きな打撃を与えたとし、「我々は目標を達成した」と強調。また、ハマス再武装化を阻止するため、エジプトとの境界管理で米国や欧州などの支援を取り付けたことに触れ、攻撃停止が妥当であると説明した。
 だが、攻撃停止はイスラエルの一方的な「停戦」宣言で、エジプトが仲介に乗り出していた停戦協議とは別物。イスラエルの存在を認めないハマスを政治的交渉の相手にしたくないのが本音で、ハマスとの何らかの合意があったわけでもない。
 ハマスが攻撃を続ければ、イスラエル軍の攻撃が「報復」として正当化される可能性があった。停戦に応じる形をとったのは、イスラエルの攻撃がハマスの想像を超える激しさだったため、との見方もある。

 朝日新聞は1月18日のオピニオン面「耕論」において、対立が激化するパレスチナ紛争の現状と今後の見通しに関し、イスラエルファタハハマスそれぞれの立場を代表する論者3人の意見を紹介している。
 
 イスラエルが中東における自らの存在基盤の正当性を強化するために、ガザとの局地紛争を利用する戦略をとるならば、また、パレスチナの内部対立が硬直化を続けるならば、この紛争の出口は隘路の奥に閉ざされることになるだろう。
 その一方で、今回の朝日新聞のインタビューにおいて、アッザム・タミミ氏は「かなり未来の話」と断った上で、将来の中東地域の展望を「欧州連合EU)のような中東合衆国」と描いてみせる。「共通の市場をつくり、労働力や物が自由に移動できる地域連合」を仮に将来、この地に樹立することができれば、多極化世界における重要なプレーヤーの一つとして、発言権も飛躍的に増していくことだろう。だが、それはいったいいつのことになるのか。
 



 
パレスチナ 解決の糸口は (2009年1月8日 朝日新聞 オピニオン面「耕論」 [抜粋])
▼ニシム・ベンシトリット(駐日イスラエル大使)
 「ハマスはガザ市民を人質にとっている。イスラエル軍は民間人を意図的に攻撃はしない。反対にハマスイスラエルの市民だけを狙ってロケット弾攻撃を続けている。
 (市民の犠牲者がパレスチナ人の方が圧倒的に多いのは)イスラエルでは市民にシェルターを提供しているからだ。白リン弾使用は非合法ではなく、煙幕を生じさせるなど作戦で必要な場合に使っている。
 イスラエルは交渉を通じて、パレスチナ国家を樹立するための和平合意を平和的な方法で結びたい。穏健派ファタハと過激派ハマスの2つのパレスチナ国家ができることは望まない。
 ハマスは大きな問題の細部。過激なイデオロギーで過激なイスラム国家を世界中につくろうとしているのがイランであり、ヒズボラレバノンイスラムシーア派武装組織)であり、ハマスだ。いま我々はガザでイランと戦っているのだ」 
 
アッザム・アフマド(パレスチナ自治評議会ファタハ議員団長)
 「ハマスが我々の勧めを無視して停戦を延長せず、イスラエルに攻撃の口実を与えてしまった。支援国のイランやシリアの助言に従ったのだろうが、深刻な間違いをした。ハマスは06年のレバノン紛争でイスラエルに打撃を与えたヒズボラのようになりたいのだろう。しかし地下トンネルを掘って密輸するしか手段のないハマスが、中東最強のイスラエル軍に勝てるわけがない。
 (47年の国連パレスチナ分割決議で、パレスチナ人とユダヤ人は土地をほぼ半々に分けることになったのに、翌年の第1次中東戦争の結果、パレスチナ人の土地は全体の23%にまで減り)第3次中東戦争ではそれさえも占領された。ファタハは独立国家樹立を最大の目標として、23%で我慢するという決断をしたが、ハマスは今のイスラエル領を含む100%を取り戻す意図がある。さらにアラブ全体を『神の国』にまとめてしまおうという狙いがある。
 ハマス武装抵抗を控えれば、ファタハと和解して統一パレスチナとなり、和平の展望が開けてくるが、その見通しは楽観的すぎる。イスラエル自身がガザのハマス支配を続けさせたがっている。それを理由に『独立国家は無理だ』と言えるからだ」
 
アッザム・タミミ(英イスラム政治思想研究所長)
 「ハマスは、占領から解放するための抵抗運動をしている。占領を続け、無実の市民を殺しているのはイスラエルだ。イスラエル軍がガザから完全撤退し、封鎖を解き、検問所の通行を認めれば、ハマスも停戦に応じる用意がある。和解は停戦が10年や15年と続いて初めて、イスラエルが存在している事実を、次の新しい世代が受け入れる。
 (パレスチナ内部の対立について)ファタハはもう終わった。指導層が腐敗しきっており、市民からの信託をまったく受けていない。
 (オバマ米次期大統領の登場で)変化を期待するが、難しいだろう。米議会はイスラエルの攻撃を支持している。和平を目指すなら、オバマ氏は、正当な選挙で選ばれたハマスを重要なプレーヤーと位置づけるべきだ。イスラエルを正当な国家として認める、ということ以外なら、妥協も可能だ」